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前期終業式 令和6年9月26日
皆さん、おはようございます。昨日までの一斉テスト、お疲れさまでした。令和6年度前期の終業にあたり、今日は、皆さんに前期の振り返りをしてもらいたいと思います。
私は4月に始業式と入学式で皆さんに次の3つのことをお願いしました。
一つめは、思いやりの心を持つことです。自分を大事にするとともに、周りの人を大事にして、皆がそれぞれの違いを認め合い、尊重する、思いやりの心を持つこと。
二つめは、将来の夢や目標を持つこと。そして、夢や目標に近づくため、具体的に行動し、粘り強く取り組むこと。
三つめは、自分で自分をコントロールする「自己調整力」をつけることです。メタ認知能力を高め、自分で自分をコントロールする力を高めてくださいとお願いしました。
そして、この東葛が、すべての生徒と教職員が幸せな生活を送れる、ウェルビーイングを実感できる学校であることを目指していますとお話ししました。
皆さん自身の、前期の取り組みを振り返ってみて、如何だったでしょうか。
東葛は、皆さんにとって、自分の成長を感じられる場であったでしょうか。
前期を振り返りますと、5月のスポーツ祭。6月の合唱祭。そして、8,9月の文化祭。皆さんの三大祭に取り組むエネルギーは、とても素晴らしく、いずれも昨年度を上回る三大祭になったと思います。そして今年度は、百周年を記念して三大祭の実行委員会が連携して「東葛王」も決定してくれました。三大祭の連帯感、一体感が感じられた、東葛が一つにまとまる良い企画だったと思います。
三大祭それぞれの実行委員の皆さん、プロジェクトメンバーの皆さん、ほんとうにお疲れさまでした。ありがとうございました。2年生、1年生の皆さんは、来年度、更に今年度を越えるものを作り上げてくれることを期待します。
また、7月31日に行われたオープンキャンパスを運営してくれたプロジェクトメンバーの皆さん、皆さんの東葛の魅力が伝わるプレゼンや、相手のことを考えたホスピタリティ溢れる案内で、すばらしいオープンキャンパスとなりました。来場された方々からたくさんのお褒めの言葉をいただきました。ほんとうにありがとうございました。
さて、前期で三大祭も終わりました。東葛は、動の前期、静の後期です。後期は、教養を広げ、深めて、学力を高めてもらいたいと思います。皆さんの夢や目標を実現するために、それに近づくよう粘り強く取り組むことを、お願いします。
話題を変えてもう一つお話しします。
今日も、本を一冊紹介します。『私の個人主義』という夏目漱石の評論集です。東葛の図書館にもありますし、青空文庫でも読めますので、是非読んでみてください。
この「私の個人主義」は、1914年(大正3年)今から110年前、学習院の学生(皆さんと同年代の)に話した講演を筆録したものです。「個人主義」という用語は、現代では「自分だけの利益や都合を優先する人」「自分勝手な人」を指すことが多く、批判的な意味合いで使われることが多いです。当時も国家主義や国粋主義の台頭する時代に、華族の子弟が通う学習院でこのような演題で講演することは、相当に警戒されたようです。
漱石は講演の前半で、自分の半生を振り返って、「自己本位」という立脚地を得て、今日までやってこられた。自分の個性を尊重すること、自分の個性を育て発展させることが、自身の幸福のために必要だから、皆さんも突き詰めて見つけてほしいと言っています。
漱石は東京帝国大学(現在の東京大学)で英文学を研究し、卒業後、英語の教師として愛媛の松山中学、熊本の第五高等学校へ赴任します。その後、官費留学に選ばれ、英語研究・英文学研究のために英国ロンドンへ留学します。そこでは、たいへんな苦悩があったようです。下宿先の自室に引き籠り、文学だけでなく、科学から哲学まで様々な書物と格闘した結果、重度の神経衰弱に罹ってしまいます。当時ロンドンから「夏目金之助が発狂した」という電報が打電されたくらいです。
漱石は英文学を専攻していましたので、その本場の批評家のいうところと自分の考えとが矛盾する場合、気が引ける。しかし、本場の批評家のいうことをそのまま鵜吞みにするのは、他人本位である。そこで文学とはどんなものであるか、その概念を根本的に自力で作り上げるよりほかに、道はないと悟ったそうです。
漱石の言葉です。
「私はこの自己本位という言葉を自分の手に握ってから大変強くなりました。彼ら何者ぞやと気慨が出ました。今まで茫然と自失していた私に、ここに立って、この道からこう行かなければならないと指図をしてくれたものは実にこの自己本位の四字なのであります。」
「その時確かに握った自己が主で、他は賓であるという信念は、今日の私に非常の自信と安心を与えてくれました。私はその引続きとして、今日なお生きていられるような心持がします。実はこうした高い壇の上に立って、諸君を相手に講演をするのもやはりその力のお蔭かも知れません。」
「ああここにおれの進むべき道があった!ようやく掘り当てた!こういう感投詞を心の底から叫び出される時、貴方がたは始めて心を安んずる事ができるのでしょう。容易に打ち壊こわされない自信が、その叫び声とともにむくむく首を擡げて来るのではありませんか。すでにその域に達している方も多数のうちにはあるかも知れませんが、もし途中で霧か靄のために懊悩していられる方があるならば、どんな犠牲を払っても、ああここだという掘当てるところまで行ったらよろしかろうと思うのです。必ずしも国家のためばかりだからというのではありません。また貴方がたのご家族のために申し上げる次第でもありません。貴方がた自身の幸福のために、それが絶対に必要じゃないかと思うから申上げるのです。」
自分の個性を尊重すること、自分の個性を育て発展させることが大切だと述べています。自分とは、どんな人間か、他の人とどう違うのか、自分なりの考え方や価値観、自分軸をしっかりと持つことが、皆さん自身の幸せにつながります。
そして、講演の後半では、自分の個性を尊重するのと同時に他人の個性の発展を尊重すること、権力を行使するには、それに附随する義務を果たさなければならない、金力を使用するなら、それに伴う責任を負わなければならないと述べています。
「近頃自我とか自覚とか唱えていくら自分の勝手な真似をしても構わないという符徴に使うようですが、その中にははなはだ怪しいのがたくさんあります。彼らは自分の自我をあくまで尊重するような事を云いながら、他人の自我に至っては毫も認めていないのです。いやしくも公平の眼を具し正義の観念をもつ以上は、自分の幸福のために自分の個性を発展して行くと同時に、その自由を他にも与えなければすまん事だと私は信じて疑わないのです。我々は他が自己の幸福のために、己れの個性を勝手に発展するのを、相当の理由なくして妨害してはならないのであります。」
「私はなぜここに妨害という字を使うかというと、あなたがたは正しく妨害し得る地位に将来立つ人が多いからです。あなたがたのうちには権力を用い得る人があり、また金力を用い得る人がたくさんあるからです。」
ここには、ノブレス・オブリージュの精神が語られています。この言葉、この精神は、皆さんも覚えておいてください。
ノブレス・オブリージュ(仏語 noblesse oblige)(英語では noble obligation)
元はフランスの貴族はその高貴な身分に応じた義務を果たさなければならないという道徳観で、現在では、社会的地位に応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務がある、社会の模範となるように振る舞うべきだという考え方です。
漱石に戻ります。
「今までの論旨をかい摘んでみると、第一に自己の個性の発展を仕遂げようと思うならば、同時に他人の個性も尊重しなければならないという事。第二に自己の所有している権力を使用しようと思うならば、それに附随している義務というものを心得なければならないという事。第三に自己の金力を示そうと願うなら、それに伴う責任を重んじなければならないという事。つまりこの三カ条に帰着するのであります。」
「ご存じの通り英吉利という国は大変自由を尊ぶ国であります。それほど自由を愛する国でありながら、また英吉利ほど秩序の調った国はありません。実をいうと私は英吉利を好かないのです。嫌いではあるが事実だから仕方なしに申し上げます。あれほど自由でそうしてあれほど秩序の行き届いた国は恐らく世界中にないでしょう。日本などはとうてい比較にもなりません。しかし彼らはただ自由なのではありません。自分の自由を愛するとともに他の自由を尊敬するように、子供の時分から社会的教育をちゃんと受けているのです。だから彼らの自由の背後にはきっと義務という観念が伴っています。 England expects every man to do his duty. といった有名なネルソンの言葉はけっして当座限りの意味のものではないのです。彼らの自由と表裏して発達して来た深い根柢をもった思想に違いないのです。」
「それで私は何も英国を手本にするという意味ではないのですけれども、要するに義務心を持っていない自由は本当の自由ではないと考えます。と云うものは、そうした我儘な自由は決して社会に存在し得ないからであります。よし存在してもすぐ他から排斥され踏み潰されるにきまっているからです。私は貴方がたが自由にあらん事を切望するものであります。同時に貴方がたが義務というものを納得せられん事を願ってやまないのであります。こういう意味において、私は個人主義だと公言して憚らないつもりです。」
自由には義務と責任が伴うということです。
「自主自律」の東葛で学ぶ皆さんには、より深く理解できることと思います。皆さんに一度、是非読んでもらいたいと思い、紹介しました。
東葛の「自主自律」、「真の自由とは」そして「自らを律する」ということを今一度深く考えてほしいと思います。
以上、前期の振り返りと漱石の『私の個人主義』、二つのことをお話ししました。
それでは、秋休みを挟んで10月4日から始まる後期も、皆さん一人一人が心身共に健康で充実した、ウェルビーイングな学校生活を送れることを願って、終業式の話を終わりにします。
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