3年「生物」 練習プリント⑤「代謝(発酵、呼吸)の解説 今回の「発酵、呼吸」は、化学式が出てきたり、
分子量やモルの計算もあったりと、苦手意識をもつ
人もいる分野です。
なるべく図解などを利用して、自分なりに納得
しながら進んで下さい。授業プリントと教科書を
使用して、小さい単元を理解しながら進みましょう。
私も問題集の問いをなるべく分かりやすく説明して
いくつもりですので、ぜひ読んでみて下さい。
始めに
…「グルコース C6H12O6」とは?
別名「ブドウ糖」の基本知識です。

上図がグルコースの構造図です。
六角形の頂点(線が交叉しているところ)には
炭素Cがあるのですが略してあるので、
一番上の炭素Cを含め全部で6個の炭素Cから
できています。
これを六炭糖といいます。
酸素Oは全部で6個、Hは12個あります。
見た目は白い粉末の粉で、なめると「甘い」味がします。
砂糖スクロースよりも上品な甘さだと私は気に入っています。
食品としては、アミロース(デンプン)や
アミロース(デンプン)を分解したマルトース(麦芽糖)を構成している物質です。
私たちはお米やパンのアミロース(デンプン)を
消化酵素のアミラーゼでマルトース(麦芽糖)に分解し、
さらにマルトースをマルターゼでグルコースに分解して
腸から吸収します。
細胞内へ運ばれたグルコースは呼吸や発酵反応の
基質として使われます。基質というと分かりにくいですが、
要するに呼吸や発酵反応の材料です。
我々はグルコースを分解することによって、
エネルギーを得ているのです。
グルコースという物質のなかには、化学エネルギーと
いうエネルギーが蓄えられています。
グルコースが分解することによって、化学エネルギーは
放出され、ATPに蓄えられます。
筋肉が動くエネルギーも、脳が考えるエネルギーも
主にグルコースを分解したエネルギーによって得ています。
グルコースからエネルギーが出ることは、
グルコースを燃やすと実感できます。
紙を構成するセルロースもグルコースから
できています
(正確にはβグルコースというちょっと違う物質ですが)。
紙を燃やすと発生する熱エネルギーは、
グルコースがもつ化学エネルギーなのです。
生物が行う「呼吸」は、酸素O
2を使ってグルコースを
二酸化炭素CO
2と水H
2Oに分解し、エネルギーを取り出す
という点がまさに「燃焼」と同じであると言えます。
「燃焼」が短時間で分解が行われ、主に熱エネルギーが
一気に放出されるのに対して、
「呼吸」は長時間をかけてゆっくりと分解し、少しずつ
得たエネルギーはATPに蓄える点が違うところです。
「発酵」は酸素がまだ地上にあまりない時代にうまれた、
酸素を使わずにグルコースを分解する方法です。
「呼吸」に比べて分解が中途半端で終わるので、
得られるエネルギーも少ししか得られません。
どうも文章が長くなりますが、問題に入りましょう。
【STEP】授業プリントは、「発酵」から始まって「呼吸」の順番になっています。【STEP】は13~16をまずやって、その後1~12をやると良いでしょう。
【例題1】(1)いきなり化学反応式でしかも
NAD+やNADH+2H など
訳分からないと戸惑う人もいると思います。
ここでは、呼吸の3つの反応名ABCと、
呼吸で発生する二酸化炭素CO
2は反応Bで放出されること、
呼吸で必要な酸素O
2は最後の反応Cで使われること、
反応Cで酸素と水素から水12H
2Oができること
をチェックしましょう。
また予備知識ゼロでも、acの数は
炭素Cの数に注目すれば
答えられます。
つまり
Aの反応式で、
C6H
12O
6 →
(a)C3H
4O
3 に注目。
炭素Cの数が左辺と右辺で等しくなるためには、
6→(2)×3 でなければなりません。
よって(a)=2。
Bの反応式でも、
2C3H
4O
3 →
(c)CO
2 に注目。
CO2の炭素Cは1個なので、
2×3→(6)×1 になり、(c)=6です。
(2)(3)は覚えて下さい。
(4)まず、NAD
+やFADは、「脱水素酵素」の「補酵素」
と覚えましょう。
+など細かい点はまだ無視してOKです。
「脱水素酵素」は
グルコースや水から水素Hをとる酵素で、
反応Aと反応Bで大活躍します。
しかし、酵素は自分自身は変化せず反応を影で促進しますから、
反応式には書いてありません。
かわりに、補酵素のNAD
+やFADが書かれているのです。
補酵素は脱水素酵素に結合して働く小さい分子です。
小さい分子ですが働きは重要で、脱水素酵素が奪った水素H
を受け取る役割(水素受容体といいます)です。
反応AやBでは、基質や水から水素Hが2個ずつとられる
のですが、NAD
+と結合するとNADH+H
+となり、
FADと結合するとFADH
2となるのです。
そしてNADH
やFADH2の状態を「還元型」といいます。
NAD+やFADは「酸化型」です。
化学基礎で「酸素が結合する反応が『酸化』」であり、
逆に「水素が結合する反応が『還元』」と習ったのを
思い出して下さい。
取られた水素2個のうち1個はNAD+と結合し、
もう1個は水素イオンH+となって水中に溶け込みますから、
反応式では(NADH+H+)と表してあります。
「還元型補酵素」というのはNADHの状態なので、
答えはNADHとFADH2になります。
ただし、主に活躍するのはNAD+ですので、
皆さんはNAD+がNADH+H+になることだけ
覚えればOKです。
光合成ではNADP+というちょっと似た補酵素も
出てきます。
【例題2】アルコール発酵の反応式は覚えましょう。
酸素は使いません。お酒はエタノールです。
メタンはCH4、エタンはC2H6です。
メタンのH1つがOHに変わったのがエタノールです。
炭素Cの腕は4本なので構造を書くと数が判断できます。
エタノールの構造は
H H
| |
H-C-C-O-H
| |
H H
「アルコール発酵」では、1分子のグルコースから
エタノールが2個とCO2も2個できます。
最初に述べたように、「発酵」は少ししか
エネルギーが得られないのでATPは2分子です。
「発酵」の前半と「呼吸」の1番目の反応は同じで
「解糖系」という名称です。
【155】必解の問題です。反応名、場所、特徴、全て大切。
【156】
問1 グルコースがエタノールになる反応経路は
「アルコール発酵」です。
一方、グルコースがC3→C2→… と変化する反応は
「呼吸」を表しています。
「アルコール発酵」を少し詳しく表すと以下のようになります。C3やC2はその物質に含まれる炭素Cの数を示しています。
ピルビン酸は必ず覚えて下さい。
グルコース→①C3ピルビン酸→②C2アセトアルデヒド→C2エタノール
君たちが成人してからアルコールを飲むと、体内ではエタノールをアセトアルデヒドに変えるので、これが悪酔いや頭痛の原因になります。
「呼吸」では、①ピルビン酸C3は必ず覚えましょう。
受験生は③アセチルCoA C2
④オキサロ酢酸C4
も大事。この2つはクエン酸回路の手前の物質として重要。
2つが合体してクエン酸C6ができるので
「クエン酸回路」です。
問2 Hと結合した補酵素NADHやFADH2の水素Hは
「電子伝達系」で酸素O2と結合して水H2Oになります。
酸素はこの時、水素Hと結合するので還元されたことになります。
問3 ビタミンは補酵素の材料になっています。
ビタミンBが多い食品は豚肉、うなぎなど。
問4 赤血球は、成長過程で核やミトコンドリアなどの
細胞小器官を細胞外へ放出します。
狭い毛細血管を通るためです。
ミトコンドリアがないため、「解糖系」のみでエネルギーを
得ています。
【157】化学の計算が苦手な人はここでしっかりと理解して下さい。
一度理解すると後は大丈夫です。
問2 文中ではエネルギーが減少するなどと書いて
ありますが、
要するにグルコースが1モル「燃焼」すると
2870kJ(キロジュール)のエネルギーが発生して、
光や熱になります。
一方呼吸でグルコースが分解されるときは、
同じエネルギー量が発生するはずですが、
そのうち1711kJが熱エネルギーになっている、
ということです。
では2870kJー1711kJ=1159kJ は
どうしたかと言うと我々生物の「呼吸」では
1159kJ はATPの中に蓄えているといるのです。
(2)よってグルコース1モルを呼吸で分解した時に、
ATPに移し替えられたエネルギーは、
1159÷2870×100=40.38≑40.4%
になります。
これを「エネルギー効率」ともいいますが、
生物はグルコースの持っている化学エネルギーのうち
約40%をATPに蓄えて利用していることになります。
ちなみにガソリンで自動車を動かす場合の
エネルギー効率は、現在最高でやっと40%になった
そうです。やっと人間科学力が生物のエネルギー効率
に追いついてきた と言うことでしょうか。
(3)「呼吸」の3つの反応で合成されるATPは、
2,2,34合計38です。これは覚えて下さい。
1モルのグルコースを分解すると、
1159kJのエネルギーがATP38モルに
蓄えられるので、
1モルでは
1159kJ÷38=30.5kJ です。
【158】「電子伝達系」の問題は、膜のどちらが
「マトリックス」で、どちらが「膜間腔」かが大切です。
電子伝達系を電子が流れることにより、「膜間腔」に
水素イオンH
+がギュウギュウにたまり、
それが「マトリックス」側に流れ出て、
ATPが合成されるからです。
見分けるポイントは2つ。
ⅰ)NADHやFADH
2は「マトリックス」で行われる
「クエン酸回路」で合成され、「電子伝達系」までやっ
てきます。
NADHがやってきた下側が「マトリックス」です。
ⅱ)図中右端はATP合成酵素ですが、
ATP合成酵素の丸い回転翼は「マトリックス」側です。
水素イオンH
+ は図中の上側「膜間腔」にたまり、
そこからATP合成酵素の足をぬけて「マトリックス」側
に流れます。
その時、回転翼が回転しATPが合成されます。
問2 「電子伝達系」でのATP合成は、最後に酸素が水素に
結合して水になります。
つまり酸素がつく(酸化)ことで、ADPにリン酸が
つく(リン酸化)ので「酸化的リン酸化」といいます。
これに対して、「解糖系」「クエン酸回路」での
ATP合成は、「基質レベルのリン酸化」です。
また後で勉強する「光合成」におけるATP合成は
「光リン酸化」といいます。
問4と5 今まで補酵素NADHやFADH
2は水素を運ぶと
言ってきましたが、「電子伝達系」の膜内を流れるのは
水素Hではありません。
水素HがH
+と電子e
ーに分かれて、電子e
ーだけ
流れるのです。
膜内には鉄を含むシトクロムというタンパク質が
並んでいて、その中を電子e
ーは流れます。
問題の図中では左から(c)の流れという矢印が
それです。
電線を電子が流れると電球を光らせたり熱を発生する
のと同様に、
電子が流れるとそのエネルギーで膜中のタンパク質たち
がH
+を「マトリックス」側(ここでは下側)から
「膜間腔」側(上側)へ移動させます。
これはエネルギーを使っているので、
無理矢理(濃度勾配に逆らう)の移動です。
こうして「膜間腔」にたまった水素イオンは
ATP合成酵素の中を通り抜けて「マトリックス」
へ戻っていきます。
その勢いでATP合成酵素が回転するのです。