休校中の課題(第1学年)

〇1学年対象の来週の課題は以下の通りです。(R2.5.22更新)
【5月25日~5月29日の課題】
 教科学習支援ガイド 学習課題 
 国語総合 1.【国語総合】家庭学習ガイド5.25-29.pdf(動画)第8回精選国語総合2020年5月25日.pdf
(動画)第9回精選国語総合2020年5月26日.pdf
    学習課題➀文学史(近代明治期).pdf
    学習課題➁文法の確認.pdf
(動画)第10回精選国語総合2020年5月28日.pdf
 現代社会 2.【現代社会】家庭学習ガイド5.25ー29.pdf
 数学ⅠA 3.【数学ⅠA】家庭学習ガイド5.25-29.pdf 
 化学基礎 4.【化学基礎】家庭学習ガイド5.25-29.pdf 
 生物基礎 5. 【生物基礎】家庭学習ガイド5.18-29.pdf 
 保健 6.【保健】家庭学習ガイド5.25-29 .pdf【保健】学習プリント(Topic Reading③).pdf
 体育7.【体育】学習ガイド5.25-29.pdf【体育】学習プリント5.25-29.pdf
 音楽Ⅰ 8. 【音楽Ⅰ】家庭学習ガイド5.25-29.pdf
 美術Ⅰ 9. 【 美術Ⅰ】家庭学習ガイド5.25-29.pdf 
 書道Ⅰ 10. 【書道Ⅰ】家庭学習ガイド5.18-29.pdf
 コミュ英Ⅰ
 英語表現Ⅰ
 11. 【英語】 家庭学習ガイド5.25-29.pdf
 情報の科学 12. 【情報】 学習ガイド5.18-29.pdf 

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〇1年生 対象の新しい課題は以下の通りです。(R2.5.15 更新)
スマートフォンでは、学習課題が確認しづらい場合があります。
スマートフォンを横向きにすると確認しやすくなります。
【5月18日~5月22日の課題】
 教科学習支援ガイド 学習課題 
 国語総合 1.【国語総合】家庭学習ガイド5.18-22.pdf(動画)第5回精選国語総合2020年5月18日.pdf
(動画)第6回精選国語総合2020年5月19日.pdf
(動画)第7回精選国語総合2020年5月21日.pdf
 現代社会 2.【現代社会】家庭学習ガイド5.18ー22.pdf
 数学ⅠA 3.【数学ⅠA】家庭学習ガイド5.18-5.22.pdf
 化学基礎 4.【化学基礎】家庭学習ガイド5.18-22.pdf 
 生物基礎 5.【生物基礎】家庭学習ガイド5.18-29.pdf 
 保健  6.【保健】家庭学習ガイド5.18-5.22.pdf 【保健】学習プリント➀(5月18日~).pdf
 【保健】学習プリント②TOPIC READING(5月18日~).pdf
 体育7.【体育】家庭学習ガイド5.18-22.pdf 5.11~5.15体育理論課題正答.pdf
【体育】学習プリント5.18-5.22.pdf
【動画】縄跳びChallenge動画.pdf
 音楽Ⅰ 8.【音楽Ⅰ】家庭学習ガイド5.18-22.pdf 
 美術Ⅰ 9.【 美術Ⅰ】家庭学習ガイド5.18-22.pdf 
 書道Ⅰ 10.【書道Ⅰ】家庭学習ガイド5.18-29.pdf
 コミュ英Ⅰ
 英語表現Ⅰ
 11.【英語】家庭学習ガイド5.18-22.pdf
 情報の科学 12.【情報】家庭学習ガイド5.18-22.pdf 
        
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〇1年生 対象の課題は以下の通りです。(R2.5.8 更新)

スマートフォンでは、学習課題が確認しづらい場合があります。
スマートフォンを横向きにすると確認しやすくなります。

音楽・美術・書道については、選択した科目に取り組んでください。
なお、これら芸術の教科書は13日に発送する予定です。
【5月11日~5月15日の課題】
 教科学習支援ガイド 学習課題 
 国語総合 (動画)第1回精選国語総合2020年5月11日.pdf
(動画)第2回精選国語総合2020年5月12日.pdf
(補助プリント)形式段落要約例.pdf
(動画)第3回精選国語総合2020年5月13日.pdf
(動画)第4回精選国語総合2020年5月14日.pdf

 現代社会
 【現代社会】学習ガイド5.11-15.pdf 【現代社会】学習課題5.11-15.pdf
 数学ⅠA 【数学ⅠA】学習ガイド5.11-15.pdf 【数学Ⅰ】解答集①5.11-15.pdf  
 【数学A】解答集①5.11-15.pdf
 化学基礎 【化学基礎】学習ガイド5.11-15.pdf 【化学基礎】学習課題5.11-15.pdf
 生物基礎 【生物基礎】学習ガイド5.11-15.pdf 
 保健 【保健】学習ガイド5.11-15.pdf 【保健】学習課題5.11-15.pdf
 体育 【体育】学習ガイド5.11-15.pdf 【体育】学習課題5.11-15.pdf
 音楽Ⅰ 【音楽Ⅰ】学習ガイド5.11-15 .pdf 【音楽Ⅰ】学習課題5.11-15.pdf
 美術Ⅰ 【美術Ⅰ】学習ガイド5.11-15.pdf 
 書道Ⅰ 【書道Ⅰ】学習ガイド5.11-15.pdf 【書道】学習課題5.11-15.pdf
 コミュ英Ⅰ
 英語表現Ⅰ
 【英語】学習ガイド 5.11-15.pdf 【英語】学習課題5.11-15.pdf
 情報の科学 【情報】学習ガイド5.11-15.pdf 
 
R2年度入学生
12345
2020/08/28

「凱風」HP版 夏休み9号

| by chishirodai-h

 おはようございます。「凱風」HP版、夏休み最終号です。8月28日(金)、夏休み残り3日。少し下がると言っていた気温が、一転してお盆頃まで高温のままという予報に変わっています。今日もかなり蒸し暑そうで、どうやらあまり区切りのつかぬまま新学期になりそうな気配ですね。まあ、それでもまだ夏休みは今日を含めれば4日ある、最後にみんな何かいいことがあるといいですね・・・。私は部の大会があるのでここからは休みなしですが、それでもできるだけ新学期の準備をして来週を迎えたいと思います。みんな、健康で9月1日に会いましょう。

 一昨日、旅行社に確認したところでは、修学旅行積み立ての申し込みをしておられないご家庭が80件ほどあるそうです。積み立てをせずに一括、ということであれば別に問題はないのですが(実際問題まだ来年修学旅行が実施できるという保証もありませんしね・・・)、ただ、期日までに申し込みをし損ねたという方がいらっしゃると困りますので、始業式の日に一応調査をさせていただきます。積み立てシステムは期限までに申し込んでいないとどうしようもないのですが、来年度の振り込み時に申し込み損ねた方のために振込期間を長くして対応してくれるという回答を業者からはもらっています。とりあえず状況を把握しておこうと思いますので、該当の方は始業式の日にお申し出ください。

国語の宿題について新たに質問がありましたのでお答えしておきます。
国語の宿題は、答え合わせをする必要はありません。普通に解答してそのまま提出してください。

新学期初めの日程を一応確認しておきます
 9月1日(火)大掃除・始業式・頭髪服装検査
 9月2日(水)①~③課題テスト国・数・英 ④~⑥木曜日課
  9月3日(木)水曜日課
 ※夏季の課題は最初の授業で提出するはずですので、それぞれちゃんと準備しておこう。

      
                            (第1学年主任:江見)

 今日は森鷗外「牛鍋」を紹介しておきます。

「牛鍋」     森鴎外

 

  鍋はぐつぐつ煮える。
  牛肉の紅くれないは男のすばしこい箸で反(かえ)される。白くなった方が上になる。
  斜めに薄く切られた、ざくと云う名のねぎは、白い処が段々に黄いろくなって、褐色の汁の中へ沈む。
  箸のすばしこい男は、三十前後であろう。晴着らしい印半纏(しるしばんてん)を着ている。傍に折鞄(おりかばん)が置いてある。
  酒を飲んでは肉を反す。肉を反しては酒を飲む。
  酒を注いでやる女がある。
  男と同年位であろう。黒繻子(くろじゅす)の半衿(はんえり)の掛かった、縞(しま)の綿入れに、余所行(よそゆき)の前掛をしている。
  女の目は断えず男の顔に注がれている。永遠に渇しているような目である。
  目の渇きは口の渇きを忘れさせる。女は酒を飲まないのである。
  箸のすばしこい男は、二三度反した肉の一切れを口に入れた。
  丈夫な白い歯でうまそうに噬(か)んだ。
  永遠に渇している目は動く顎に注がれている。
  しかしこの顎に注がれているのは、この二つの目ばかりではない。目が今二つある。
  今二つの目の主は七つか八つ位の娘である。無理に上げたようなお煙草盆に、小さい花簪(かんざし)を挿している。
  白い手拭いを畳んで膝の上に置いて、割箸を割って、手に持って待っているのである。
  男が肉を三切れ四切れ食った頃に、娘が箸を持った手を伸べて、一切れの肉を挟もうとした。男に遠慮がないのではない。そんならと云って男を憚(はばか)るとも見えない。
 「待ちねえ。そりゃあまだ煮えていねえ。」
  娘はおとなしく箸を持った手を引っ込めて、待っている。
  永遠に渇している目には、娘の箸の空しく進んで空しく退いたのを見る程の余裕がない。
  しばらくすると、男の箸は一切れの肉を自分の口に運んだ。それはさっき娘の箸の挟もうとした肉であった。
  娘の目はまた男の顔に注がれた。その目の中には怨みも怒りもない。ただ驚きがある。
  永遠に渇している目には、四本の箸の悲しい競争を見る程の余裕がなかった。
  女は最初自分の箸を割って、盃洗(はいせん)の中の猪口(ちょく)を挟んで男に遣った。箸はそのまま膳の縁に寄せ掛けてある。永遠に渇している目には、またこの箸を顧みる程の余裕がない。
  娘は驚きの目をいつまで男の顔に注いでいても、食べろとは云って貰われない。もう好い頃だと思って箸を出すと、その度毎に「そりゃあ煮えていねえ」を繰り返される。
  驚きの目には怨みも怒りもない。しかし卵から出たばかりの雛に穀物を啄(ついば)ませ、胎を離れたばかりの赤ん坊を何にでも吸い附かせる生活の本能は、驚きの目の主にも動く。娘は箸を鍋から引かなくなった。
  男のすばしこい箸が肉の一切れを口に運ぶ隙に、娘の箸は突然手近い肉の一切れを挟んで口に入れた。もうどの肉も好く煮えているのである。
  少し煮え過ぎている位である。
  男は鋭く切れた二皮目で、死んだ友達の一人娘の顔をちょいと見た。叱りはしないのである。
  ただこれからは男のすばしこい箸が一層すばしこくなる。代りの生を鍋に運ぶ。運んでは反す。反しては食う。
  しかし娘も黙って箸を動かす。驚の目は、ある目的に向って動く活動の目になって、それが暫らくも鍋を離れない。
  大きな肉の切れは得られないでも、小さい切れは得られる。好く煮えたのは得られないでも、生煮えなのは得られる。肉は得られないでも、葱は得られる。
  浅草公園に何とかいう、動物をいろいろ見せる処がある。名高い狒々(ひひ)のいた近辺に、母と子との猿を一しょに入れてある檻があって、その前には例の輪切りにした薩摩芋が置いてある。見物がその芋を竿の尖(さき)に突き刺して檻の格子の前に出すと、猿の母と子との間に悲しい争奪が始まる。芋が来れば、母の乳房を銜ふくんでいた子猿が、乳房を放して、珍らしい芋の方を取ろうとする。母猿もその芋を取ろうとする。子猿が母の腋(わき)を潜(くぐ)り、股を潜り、背に乗り、頭に乗って取ろうとしても、芋は大抵母猿の手に落ちる。それでも四つに一つ、五つに一つは子猿の口にも入る。
  母猿は争いはする。しかし芋がたまさか子猿の口に入っても子猿を窘(いじ)めはしない。本能は存外醜悪でない。
  箸のすばしこい本能の人は娘の親ではない。親でないのに、たまさか箸の運動に娘が成功しても叱りはしない。
  人は猿よりも進化している。
  四本の箸は、すばしこくなっている男の手と、すばしこくなろうとしている娘の手とに使役せられているのに、今二本の箸はとうとう動かずにしまった。
  永遠に渇している目は、依然として男の顔に注がれている。世に苦味走ったという質たちの男の顔に注がれている。
  一の本能は他の本能を犠牲にする。
  こんな事は獣にもあろう。しかし獣よりは人に多いようである。
  人は猿より進化している。


05:00
2020/08/24

「凱風」HP版 夏休み8号

| by chishirodai-h
 おはようございます。夏休みも残り1週間となりました。猛暑もようやく少し落ち着いてきたところです。そろそろ気持ちの切り替えを始めましょう。・・・昨日のように突然の雷雨に見舞われると、今度は秋の台風や豪雨も心配になりますね。コロナ禍でついつい忘れがちになりますがここ数年、気象災害はどんどん深刻化してきていますから、今年も十分注意して過ごさなければならないでしょう。暑さも峠を越したとは言え今週もたぶんまだまだ暑いだろうし、なかなか楽はさせてもらえませんね。それでも・・・新学期に向けて準備開始です。

 このところ、夏休みの課題についての質問が増えてきました。みんな、ここへ来て宿題にも手を付けたということでしょうか。質問されたことについて、ひとつ確認しておきます。夏休み明けの課題テスト(9月2日実施)国語の出題範囲は、プリント冊子に載せた教材が対象となります。具体的には「沖縄の手記から」「児のそら寝」そして百人一首①~㉕ですね。「児のそら寝」は一応本文の現代語訳くらいは読んでおきましょう。百人一首は、最低限上の句と下の句が一致するよう覚えておけばとりあえず大丈夫ですが、やる気のある人は便覧に載っている歌の意味や、プリントで問題になった語句などにも目を通しておいてください。
・・・考えてみれば9月2日って1週間後だものね。

 先週は、学校では体育祭の応援団有志がせっせと応援練習をしていました。次々と行事がなくなっていく中で、何か一つでも実現させたいという生徒諸君の強い思いを感じました。10月に延期したことでなんとかこの行事くらいは実現して貰いたいと願っていますが・・・今の感染状況だとなあ・・・それでも、諦めなければチャンスもあると信じましょう。。
 学校に限らず、日本人の誰もがこのウイルス騒動は夏には落ちつくと思っていましたけれど、その予想は完全に裏切られました。思えば、我々は心のどこかで、どんな問題もいずれはなんとか片付くと信じて生きているわけですが、あるいはこのコロナ禍はそういういわれのない安心感のようなものに対する厳しい教訓なのかも知れません。人の力ではどうにもならないものに対して我々はどう立ち向かうのか、少なくともここで希望を失ったりあきらめたりしてしまえばそれでおしまいなのは確かです。困難に直面した人を破滅させるのは、往々にして、困難そのものではなく困難によってくじけてしまった心です(あきらめたらそこで試合終了だと安西先生も言っていましたしね)。たぶん2学期以降もいろいろ試練に見舞われることとは思いますがくじけず、やれることを模索してなんとか乗り越えていきたいですね。

 今週はまた実力養成講座を再開します。新たに参加を希望する人はまた声をかけてください。例によって毎回完結の内容になっていますので当日いきなり参加することもまあ可能ですので。予定は学年室前に貼ってあります。その時々で、やれることをやっていく。今はそれだけです。
                                                                      (第1学年主任:江見)

今回は日本の探偵小説の父、江戸川乱歩の「指環(ゆびわ)」という短編を紹介しておきます。・・・これはまあ、読書感想文向きではありませんね。一昔前はこういうものが読まれていたんだなと思って読んでみてくださいな。

「指環」   江戸川乱歩

A 失礼ですが、いつかも汽車で御一緒になった様ですね。
B これはおみそれ申しました。そういえば、私も思い出しましたよ。やっぱりこの線でしたね。
A あの時は飛んだ御災難でした。
B いや、お言葉で痛み入ります。私もあの時はどうしようかと思いましたよ。
A あなたが、私の隣の席へいらしったのは、あれはK駅を過ぎて間もなくでしたね。あなたは、一袋の蜜柑を、スーツケースと一緒に下げて来られましたね。そしてその蜜柑を私にも勧めて下さいましたっけね。……実を申しますとね。私は、あなたを変に慣れ慣れしい方だと思わないではいられませんでしたよ。
B そうでしょう、私はあの日はほんとうにどうかしていましたよ。
A そうこうしている内に、隣の一等車の方から、興奮した人達がドヤドヤとはいって来ましたね。そして、その内の一人の貴婦人が一緒にやって来た車掌にあなたの方を指して何かささやきましたね。
B あなたはよく覚えていらっしゃる、車掌に「ちょっと君、失敬ですが」と云われた時には変な気がしましたよ。よく聞いて見ると、私はその貴婦人のダイヤの指環をすったてんですから、驚きましたね。
A でも、あなたの態度は中々お立派でしたよ。「馬鹿な事をいってはいけない。そりゃ人違いだろう。何なら私の身体を検(しら)べて見るがいい」なんて、一寸あれだけの落着いた台詞は云えないもんですよ。
B おだてるもんじゃありません。
A 車掌なんてものは、ああした事に慣れていると見えて、中々抜目なく検査しましたっけね。貴婦人の旦那という男も、うるさくあなたの身体をおもちゃにしたじゃありませんか。でも、あんなに厳重に検べても、とうとう品物は出ませんでしたね、みんなのあやまり様たらありませんでした。ほんとに痛快でした。
B 疑いがはれても、乗客が皆、妙な目附で私の方を見るのには閉口しました。
A しかし、不思議ですね。とうとうあの指環は出て来なかったというじゃありませんか。どうも、不思議ですね。
B …………
A …………
B ハハハハハハ。オイ、いい加減にしらばくれっこは止そうじゃねえか。この通り誰も聞いているものはいやしねえ。いつまでも、さようしからばでもあるまいじゃないか。
A フン、ではやっぱりそうだったのかね。
B お前も中々隅へは置けないよ。あの時、俺がソッと窓から投げ出した蜜柑のことを一言も云わないで、見当をつけて置いて、後から拾いに出掛けるなんざあ、どうして、玄人(くろうと)だよ。
A 成程、俺は随分すばしっこく立廻った積りだ。それが、ちゃんとおめえに先手を打たれているんだからかなわねえ。俺が拾ったのはただの腐れ蜜柑が五つよ。
B 俺が窓から投げたのも五つだったぜ。
A 馬鹿云いねえ。あの五つは皆無傷だった。指環を抜き取った跡なんかありゃしなかったぜ。いわくつきの奴あ、ちゃんとおめえが先廻りして拾っちまったんだろう。
B ハハハハハハ。豈(あ)に計(はか)らんや、そうじゃねえんだからお笑い草だ。
A オヤ、これはおかしい。じゃ、何の為にあの蜜柑を窓から抛(ほう)り出したんだね。
B まあ考えても見ねえ。せっかく命懸けで頂戴した品物をよ。たとい蜜柑の中へ押込んだとしてもよ。誰に拾われるか分りもしねえ線路の側なぞへ抛られるものかね。おめえがノコノコ拾いに行くまで元の所に落ちていたなぞは、飛んだ不思議と云うもんだ。
A それじゃやっぱり蜜柑を抛った訳が分らないじゃないか。
B まあ聞きねえ、こういう訳だ。あの時は少々どじを踏んでね、亭主野郎に勘ぐられてしまったものだから、こいつは危いと大慌てに慌てて逃げ出したんだ。どうする暇もありゃしねえ。だが、おめえの隣の席迄まで来て様子を見ると、急に追っかけて来る様でもねえ。さては車掌に知らせているんだな、こいつはいよいよ油断がならねえと気が気じゃないんだが、さて一件の物をどう始末したらいいのか、咄嗟の場合で日頃自慢の智慧も出ねえ。恥しい話だが、ただもうイライラしちまってね。
A なる程。
B すると、フッとうまい事を考えついたんだ。というのが、例の蜜柑の一件さ。よもやおめえが、あれを見て黙っていようたあ思わなかったんだ。きっと手柄顔に吹聴(ふいちょう)するに違いない。そうして俺が蜜柑の袋を投げたと分りゃ、皆の頭がそっちへ向かうというもんじゃねえか。蜜柑の中へ品物をしのばせて置いて後から拾いに行くなんざあ古い手だからね。誰だって感づかあね。そうなるてえと、たとい検べるにしてからが、この男はもう品物を持っちゃいねえと云う頭で検べるんだから、自然おろそかにもなろうてもんだ。ね、分ったかね。
A 成程、考えやがったな。こいつあ一杯喰わされたね。
B ところが、おめえが知って居ながらなんとも云い出さねえ。今に云うか今に云うかと待ち構えていても、ウンともスンとも口を利かねえ。とうとう身体検査の段取りになっても、まだ黙っていやあがる。俺あ「さては」と思ったね「こいつは飛んだ食わせものだぞ。このままソッとして置いて、後から拾いに行こうと思っていやがる」あの場合だが、俺あおかしくなったね。
A フフン、ざまあねえ……だが待ちねえ。するってえと、おめえはあれを一体どこへ隠したんだね。車掌の奴随分際どい所まで検べやあがった。口の中から耳の穴までくまなく検べたが、でも、とうとう見つからなかったじゃないか。
B お前も随分おめでてえ野郎だな。
A はてね。こいつは面妖(めんよう)だね。こうなるてえと、俺あどうも聞かずにゃ置かれねえ。そう勿体(もったい)ぶらねえで、後学の為に御伝授に預かりたいもんだね。
B ハハハ……まあいいよ。
A よかあねえ、そう焦らすもんじゃねえやな。俺にゃどうも本当とは受取れねえからな。
B 嘘だと思われちゃ癪(しゃく)だから、じゃ話すがね。怒っちゃいけないよ。実はね、おめえが腰に下げていた煙草入れの底へソッとしのばせて置いたのさ。それにしても、あの時お前の身体はまるで隙だらけだったぜ。ハハハハハハ、エ、いつその指環を取戻したかって、いうまでもねえ、おめえが、早く蜜柑を拾いに行こうと、大慌てで開札口を出る時によ。

04:50
2020/08/20

「凱風」HP版 夏休み7号

| by chishirodai-h
 おはようございます。月・金で出していくつもりでいたが明日から3日間、教員採用試験で学校には入れませんので、1日早くUPします。
 まず最初にお詫びと訂正ですが、8月15日に載せた文法問題の解答に誤りがありましたので、訂正いたしました。ミスが多くて申し訳ありません。幸い、こうして間違いを見つけて指摘してくれる人がいるので助かっています。ありがとう。訂正箇所には下線をつけてありますので、ご確認ください。

 長く続いた猛暑もどうにかこの週末くらいで終わりそうでしょうか。今週の月曜日などはもうどこにも居場所がないくらい世界中が熱気に包まれておりましたが、昨日あたりは風も吹いて、一日体育館にいてもどうにか命に別状がないくらいには過ごしやすくなってきています。まあ、今日はまた少し暑くなるようですが・・・暑さ同様、コロナについてもいい加減ピークを過ぎてもらいたいものですね。夏休みは残り十日あまり、第2学期が平和に始まることを願っております。

 先日もお知らせしましたが、修学旅行積み立ての手続き締め切り日は本日です。忘れている方はありませんか?万一用紙をなくした場合のURLなどもHPに掲載してありますのでご確認ください。

 さて・・・今週は月・火と学校見学会が実施され、2日間で約900人の中学生が来校しました。生徒会役員が頑張って案内などに奔走し、各部活も元気に活動してくれて夏休みとは思えない活況でした。学校が元気だと我々もなんとなくうれしくなります。国内では相変わらずコロナ禍が続いておりますが、なんとか頑張っていきましょう。

 来週がいよいよ実質的に夏休み最後の週となります。皆さん、宿題は片付いていますか?クラスによっては来週面談のクラスももありますし、学校生活再開の雰囲気が高まってきますね。夏休みでまた昼夜逆転したり生活リズムを崩していたりする人があれば、来週中に生活を立て直しておきましょう。私も気持ちを2学期に向けて切り替えてしっかり準備をしておこうと思います。それでは、夏休み残り約10日、皆さん元気でお過ごしください。                                                   (第1学年主任:江見)

 今日は、皮肉な作風で知られるイギリスの小説家サキの作品「第三者」を紹介しておきます。

「第三者」 サキ

 東部カルパチア山地の森の中である。
 ある冬の寒い晩、一人の男が銃を片手に耳をすましていた。ちょっとみると、鳥か獣があらわれるのを待っているようだ。が、じつのところはそうでないのである。この男――ウルリッヒ・フォン・グラドウィツは、人間があらわれるのを待っているのだ。
 彼が所有する山林には、野獣がたくさんいた。でも山林のはずれのこのあたりには、そんなにいない。それにもかかわらず、このあたりが気になって仕様がないのだ。もともとこの山林は、彼の祖父が、不法な理由で所有していた小さい地主から、裁判沙汰で無理に奪いとったものである。奪われた小地主は、その裁判が不服だった。それいらい、長いあいだ、両方の地主の争いがつづいて、グラドウィツが家長になるころには、両家の個人的憎悪にまで発展していた。つまり、この両家は三代にわたって仇敵のごとく争っているのだ。グラドウィツが世界中で一番にくらしいと思うのは、自分の土地に侵入して野獣をとるこのズネームという小地主だった。グラドウィツとズネームは、子供のときからおたがいに相手の血にうえていた。両方が相手の不幸を心から願っていた。だから、この風の寒い冬の晩、グラドウィツは数名の部下に森を歩かせ、もし泥棒が侵入したら捕えるよう命令したのである。いつもはしげみに隠れてめったに姿をみせぬ牡鹿が、その晩にかぎって森のあちこちを走った。ほかの森の動物もいつもとはちがって騒々しい。そのわけはよく分っている。ズネームが侵入しているにちがいないのだ。
 彼は山の高いところに部下を配置し、自分一人は急な斜面をおりて、麓の深い森へはいり、風にそよぐ梢の音や、木と木のふれあう音に耳をかたむけた。密猟者がはいりこんでいないか。ズネームが潜んでいないか。もしこの風の暴れる夕方、邪魔する第三者のいないこの淋しい森の中で、仇敵ズネームとめぐりあうことができたら、おお、その時こそ――これが彼のなによりの願望だった。そして、そんなことを考えながら、ブナの巨木の幹をまわると、当の仇敵とぱったり顔をあわせたのである。
 ふたりの敵と敵は、長いあいだにらみあっていた。どちらも怨恨にもえ、手に鉄砲をもっていた。一生に一度の情熱を爆発させる時がきた。けれど、遺憾ながら、彼らはどちらも文明の世に生れた人間なので、無言のまま、平然と人を殺す気にはなれなかった。どうしてもきっかけというものが必要だった。
 それで、二人がもじもじしていると、そこに横あいから、大自然の手が加わったのである。先刻から吹きあれていた強風が、一段と猛烈に木々をゆるがしたと思うと、その拍子にブナの大木の幹がめりめりとおれて、どさんと大きな音をたてて倒れ、逃げだすすきもなく、二人をおさえつけてしまったのだ。グラドウィツの片手は麻痺し、片手は二股になった枝におさえつけられ、両足も同時に太い枝におさえつけられていた。重い編上靴をはいていたからよかったものの、そうでなかったら、足がつぶれるところだった。傷こそうけなかったが、起きあがることはできなかった。だから、誰かがきて、大木の枝を鋸できってくれるまでは、どうすることもできない。顔にあたった小枝で、目に血が流れこんだ。その血をしばだたいて、払いのけながらあたりをみると、すぐそばにズネームが彼同様おさえつけられて、しきりにもがいている、もがいても起き上ることはできないらしい。そのそばにはたおれた大木の大小さまざまの枝が、いっぱいにひろがっていた。
 グラドウィツは、動けなくなったのを口惜しがっていいのか、生命が助かったのを感謝していいのか、悲喜こもごもの妙な気持だった。
 ズネームも顔から血を少しばかりだしていた。そしてもがくのをやめて、しばらく聞き耳をたてていたが、たちまち大声で笑いながら、
「お前も助かったのかい。死んでしまやあいいのに。でもおかしいね、グラドウィツがおれのところから盗んだ山の中で動けなくなるとは。これも天罰と思うがいい。」
 そして、また彼は大きな声で嘲笑した。
 グラドウィツはいう。「なんだと、盗んだ山だといったな、そうじゃない。ここはおれの土地だ。いまにおれの部下が助けにきてくれるよ。お前は密猟にはいったところをおれの部下に発見されるなんて、いい恥さらしだ。気の毒なやつだ。」
 ズネームはすぐにはいわなかったが、しばらくするとこうこたえた。
「お前はいま助けにきてくれるといったが、そりゃ本当か? おれの使っている男たちも、今夜この山にきているんだ。もうここへくるだろう。きたらまずおれを助けだしてくれて、そのあとで、お前のうえに大きな木をもひとつのせるだろうよ。お前の使っている男がくる頃には、とうにお前は死んでしまっている。葬式の日には、お悔みの手紙の一本もだしてやるよ。」
「いいことを教えてくれた!」と、グラドウィツは口を尖らせていった。「おれは部下の男に十分間たったらここへこいといっといた。だからもうくるだろう。きたらいまお前がいったと同じことをしてやるよ。でもお前はこっそり人の山林に侵入して、密猟しているところを殺されたのだから、お悔みの手紙だけはださないよ。」
「分った。分った。そんならおれたちは、どちらかが死ぬまで戦おう。お前のほうに部下がいるなら、こっちにもいるんだ。ここで勝負をつけるなら、第三者の邪魔者がこなくていい。グラドウィツの馬鹿っ! 早く死んでしまえ!」
「ズネームの馬鹿! 早く死んでしまえ! 泥棒! ひとの山林の中にはいって猟をする泥棒!」
 ふたりとも、すぐ部下がきて、助けてくれると思っていた。助かるのは自分のほうが早いと思っていた。だからあらゆる毒々しい言葉でののしりあった。
 だが、しばらくすると、二人とももがいても無駄なことが分ったので、あまり動かなくなり、グラドウィツは比較的自由な片手を、やっと上着のポケットにさしいれて、酒の壜をだした。壜をだすことはだしても、栓をぬいて飲むのが一仕事だった。でも、ぐっと一飲みした時の気持は格別だった。冬は冬でも、まだ雪がふらなかったので、わりあいに温かだった。酒がまわると好い気持になって、苦痛の唸声を噛みしめているとなりの男が、可哀そうになった。
 そこでグラドウィツは不意にこんなことをいったのである。
「どうだい。この酒を一口飲ましてやろうか。とてもうまい酒だ。今夜のうちに、お前かおれのどちらかが死ぬにしても、今の中別れに一杯飲んだらどうだ。」
「だめだよ。おれは目のふちに血が固まって、なにも見えないんだ。それに敵といっしょに酒を飲むのは嫌だよ。」
 グラドウィツはしばらく黙って、ものうい風の音を聞いていた。そして時々苦しそうに木におさえつけられているとなりの男のほうに目をやった。烈火のように燃えていた憎悪の炎が、だんだん消えてゆくのを感じた。
「おい、ズネーム、お前の部下がさきにきたら、どうにでも勝手にするがいい。しかしおれは考えを変えた。おれの部下がさきにきたら、まずお客様として、お前からさきに助けさして、おれはあとで助けてもらうつもりだ。ふたりはこの土地のことで、悪魔のように争ってきた。風に吹かれるこの山の木が、曲りくねって成長するとおなじだった。しかし今夜ここに寝ていて考えてみると、じつに馬鹿らしいことだ。世の中には土地のことで喧嘩をするより、もっと面白いことがたくさんある。どうだね、これからは喧嘩をやめて、仲好くしようじゃないか。」
 ズネームは返事をしなかった。死んだのではなかろうかと、グラドウィツは思った。
 が、しばらくするとズネームが静かにいいだした。
「でも、お前と二人でいっしょに馬にのって市場を歩いたら、みんながびっくりしてみるだろうな。グラドウィツとズネームが、仲好く歩くなんて図は、誰だって意外に思うだろう。おれたちが仲直りしたら、山の男たちも喜ぶだろう。いま仲直りしたって、誰も文句をいったり、邪魔したりする第三者はいないんだ……祭の晩には、お前もおれの家へきてくれ。そのかわりおれも時々ご馳走になりに行くよ。……もうこれからはお客として招待された時以外、お前の山の中へはいって鉄砲うったりなんかしないよ。お前も時々はおれのとこの沼におりてくる水鳥をうちにきてくれ。ふたりが仲直りしても、邪魔する者は一人もない。長い間おれはお前を憎みつづけてきたが、今夜から心をいれかえた。お前にもらったこの一杯の酒で、これからは友だちになるよ。」
 しばらく黙ったまま、二人はこの劇的な仲直りがおよぼすべき、世間の変化を考えていた。そしてひゅうひゅう強い風が吹いて、大木の幹や梢をうならせるこの寒い暗い森のなかで、早くどちらかの部下がきてくれればいいと、心に念じていた。もうこうなっては、どちらの部下がきても、両方が助かるのである。でも、やはり、早くくるのが、自分の部下であることをのぞんだ。それはいままでの敵に好意をしめすという名誉ある仕事を、自分でしたいからであった。
 たちまち風がやんだ。
 グラドウィツは沈黙をやぶって、
「二人声を揃えて呼んでみようじゃないか。いまは静かだから、遠方に聞えるかもしれない。」
「木がしげっているから、よほど大きい声をださないと聞えないよ。でも呼んでみようか。」
 二人はいっしょに大声で呼んだ。
 しばらくするとグラドウィツがまた、
「もう一度呼んでみよう。」
 また呼んだ。
 呼んだあとで耳をすまして返事をまった。
「なんだかむこうのほうで、返事のようなものが聞えたよ。」とグラドウィツがいった。
「風の音だろう。おれにはなにも聞えなかった。」
 グラドウィツは耳を傾けていたが、急に嬉しげな声になって。
「森のむこうから走ってくるのが見える。おれがおりたとおなじ坂道をおりてくる。」
 また二人が声をあわせてありたけの力で叫んだ。
「いまの声が聞えたらしい。立止って考えている。ほら、みつけた。こっちへむけてどんどん走ってくる。」グラドウィツがいった。
「なん人いるかね?」ズネームがきいた。
「まだよく分らん。九人か十人らしい。」
「そんならお前の部下だろう。おれのほうは七人しかいないのだから。」
「一生懸命に走っている。元気のいいやつだ。」
 グラドウィツは満足らしい声だった。
「たしかにお前のほうの男かね!」とズネームがきいた。
 そして、返事がないので、また、「お前のほうの男か?」ときいた。
「いや、」と答えて、グラドウィツは恐怖に戦慄しながら、馬鹿のようにげらげら笑いだした」。
「じゃ誰だい?」とズネームは目をしょぼしょぼさせながら、不安げにきいた。
「狼!」

05:10
2020/08/19

夏休み課題解答を追加します

| by chishirodai-h
 その後、夏休み課題について問い合わせがありましたので補足しておきます。

 まず、百人一首については、休み明けのテストに限って言えば、上の句と下の句が一致出来る程度に覚えていれば大丈夫です。いずれ実力問題なども出したいとは思っていますが。

 課題8ページの解答もほしいということですので、以下に。

今回の範囲1~25番の歌 について

●枕詞(解説は便覧P.104~105)
 ②白妙の
 ③あしびきの
 ④白妙の
 ⑰ちはやぶる
●ふりさけ見る = はるかに眺めやる(遠くまで見わたす
●眺め(眺む) = 物思いに沈んでぼんやりと見やる(便覧P.557)
●たつみ = 東南
●・・・なくに = 私(のせい)ではありませんのに
●有り明けの月 = 夜が明けてもまだ空に残っている月
          ※男が女の元を訪れて去ったあと、空にまだこの月が残っていると相手に対する名残惜しさを象徴
           するものとしてとらえられることが多い
●むべ = なるほど(便覧P.560) ※「むべなるかな」=「なるほどもっともなことであるなあ・・・」
●・・・もがな = ・・・が(で)あればいいなあ(願望の終助詞) ※文法テキスト裏表紙側の助詞表も確認を
●この範囲に出てきた六歌仙 ⑧喜撰法師 ⑨小野小町 ⑫僧正遍昭 ⑰在原業平 ㉒文屋康秀
  ※百人一首には大友黒主だけ入っていない。六歌仙図は便覧P.98

 こんなところで大丈夫でしょうか?
                                           (第1学年主任:江見) 
06:54
2020/08/18

修学旅行積み立て締め切り日は明後日です!

| by chishirodai-h
 夏休み前に連絡した修学旅行積み立ての登録締め切り日が明後日に迫りました。20日当日は混雑しそうですのでできるだけ明日中に登録していただいた方が無難なようです。まだの方は至急お願いいたします。(第1学年主任:江見)

用紙をなくした人のために念のためURLと連絡先を載せておきます。

ログインURL https://tabishitaku.plus/2ktHu

 連絡先 株式会社近畿日本ツーリスト 千葉教育旅行支店 043-227-9401

12:48
2020/08/17

文法の解説動画

| by chishirodai-h
大分手間取りましたが、ここに文法の説明をUPしておきます。加藤先生ありがとうございました(ひとりではできないんですよ・・・)。今回の説明はあまりわかりやすくないかもしれないなああ・・・わからなかったらごめんなさい。そのときはまた質問してください。

https://youtu.be/t0uAdjMXIJU 


16:52
2020/08/17

「凱風」HP版 夏休み6号

| by chishirodai-h
 おはようございます。夏休み後半戦スタートです。お盆を過ぎても猛暑は一向に弱まりません。体調管理にはくれぐれも注意してください。部活動なども早朝に始めて9時くらいに終われるといいのでしょうが・・・。とにかくコロナ禍の中ではありますが、熱中症の死者数はそれを上回る勢いですので、コトは生命に関わります。自分を大事にしましょう。寝不足や体調不良の状態では決して活動しないように。

 お盆休みで少しは宿題は片付きましたか。その後あまり質問も来ないようなのでとりあえず大丈夫のかなと思ってはいますが、困ったときは抱え込まずにさっさと質問してくれた方が早いと思います。

 それにしても感染拡大が止まりません。日によってばらつきはあるものの(これも単に分母の検査数によるもので実は毎日同じくらいなのだろうなという気がしますね)連日全国で1000人以上の感染者が確認されています。東京も200弱から400弱(389人を、「300人を超えた」と言うのは絶対何かごまかしているよなあ・・・)で推移し、千葉県もこのところ連日50人前後。これに対して特に何も指示は出ていませんが、今後の部活動の大会なども再考を余儀なくされるのではないかと心配です。これだけ感染者数が増えてくれば公共交通機関の車内が危険なのは明らかですから、2学期以降の学校のあり方についてもいろいろ心配です。
 こうした状況も踏まえコロナノートから始めた学習はやはり2学期以降も継続する必要があるでしょう。特に宿題にしてはいませんが、各自少し新聞やネットの記事など情報を集めておいてください。できれば自分の考えたことなどもメモしておくといい(国語のノートをそのまま使ってくれて構いません)でしょう。

 そんな中、今日は学校見学会です。今年は集会が開けないので説明会はなし、中学生が自由に校内を見学していく形式です。こんな環境の中で受験を控えている中学生は本当に不安でしょうね。来る人の中には君たちの後輩になる人もいるでしょうから、学校に来ている人は見学の中学生に優しく接してあげてください。

 土曜日にとりあえず夏休みの課題の解答例を載せました。ただ、文法についてはまだまだ解説が必要な人も多いかと思いますので、本日午後(午前中は部活があり、l午後一番で実力養成講座も入っているので2時半くらいまで手が空かないので・・・)に解説動画を撮影してここに載せたいと思います。まあ、私の説明でどこまでわかるかわかりませんが、ないよりはマシだと信じています。
 ついでに、一つ言っておきたいのですが、今後とも学校で配布された副教材はできるだけ活用してください。世の中にはどうもある種の信仰があって、各教科について誰でもよく分かる素晴らしいテキストが存在していると思い込んでいる人が多いのですが、実際問題としてテキスト自体には大して違いはありません。まああえて言うなら一番素晴らしい完璧なテキストなんてものはないけれど、自分に一番よく合うテキストというものはあります。だから、自分で参考書を買うなら自分が読んで「あ、これやりやすい」、と思えるものがベストなんだと私は思っています。・・・それはさて措き、学校で配布している副教材がベストだとは申しませんが、高校で学習するべき内容を修得するのに十分なだけの情報はあの中にきちんと入っています。だから、活用しなければもったいない。今回の動画では古典文法テキストの使い方を確認しますので観るときはテキストをご用意下さい。・・・授業で毎度言うように、便覧もこまめに参照する癖をつけましょうね。


 季節外れですが、O・ヘンリーの「賢者の石」を紹介しておきます。「幸福とは」というテーマで感想文を書くのにいいのでは?

 1ドル87セント。 それで全部。 しかもそのうち60セントは小銭でした。 小銭は一回の買い物につき一枚か二枚づつ浮かせたものです。 乾物屋や八百屋や肉屋に無理矢理まけさせたので、 しまいに、こんなに値切るなんてという無言の非難で頬が赤くなるほどでした。 デラは三回数えてみました。 でもやっぱり1ドル87セント。 明日はクリスマスだというのに。これでは、まったくのところ、粗末な小椅子に突っ伏して泣くしかありません。 ですからデラはそうしました。 そうしているうちに、 人生というものは、わあわあ泣くのと、しくしく泣くのと、微笑みとでできており、 しかも、わあわあ泣くのが大部分を占めていると思うようになりました。

 この家の主婦が第一段階から第二段階へと少しづつ移行している間に、 家の様子を見ておきましょう。 ここは週8ドルの家具付きアパートです。 全く筆舌に尽くしがたいというわけではないけれど、 浮浪者一掃部隊に気をつけるためにアパートという名前をつけたに違いありません。階下には郵便受けがありましたが手紙が入る様子はなく、 呼び鈴はありましたが人間の指では鳴らせそうもありません。 その上には「ミスター・ジェームズ・ディリンガム・ヤング」 という名前が書かれた名刺が貼ってありました。
 その「ディリンガム」の文字は、 その名の持ち主に週30ドルの収入があった繁栄の時代にはそよ風にはためいてきました。 でもいまや収入は20ドルに減ってしまい、 文字たちはもっと慎ましく謙遜な「D」一文字に押し縮めようかと真剣に考えているようでした。 しかし、ジェームズ・ディリンガム・ヤング氏が家に帰って二階のアパートに着くと、 すでにデラとしてご紹介済みのジェームズ・ディリンガム・ヤング夫人が、 「ジム」と呼びながら、いつでもぎゅうっと夫を抱きしめるのでした。 これはたいへん結構なことですね。

 デラは泣くのをやめ、頬に白粉をはたくのに意識を集中させました。 デラは窓辺に立ち、灰色の裏庭にある灰色の塀の上を灰色の猫が歩いているのを物憂げに見ました。 明日はクリスマスだというのに、ジムに贈り物を買うお金が1ドル87セントしかありません。 何月も何月もコツコツとためてきたのに、これがその結果なのです。 週20ドルでは、大したことはできません。 支出はデラが計算した以上にありました。 支出というものはいつだってそういうものでした。 ジムへの贈り物を買うのに1ドル87セントしかないなんて。 大切なジムなのに。 デラは、ジムのために何かすばらしいものをあげようと、長い間計画していたのです。 何か、すてきで、めったにないもの ―― ジムの所有物となる栄誉を受けるに少しでも値する何かを。
 その部屋の窓と窓の間には姿見の鏡が掛けられていました。 たぶんあなたも8ドルの安アパートで見たことのあるような姿見でした。 たいそう細身で機敏な人だけが、 縦に細長い列に映る自分をすばやく見てとって、 全身像を非常に正確に把握することができるのでしょう。 デラはすらっとしていたので、その技術を会得しておりました。急にデラは窓からくるりと身をひるがえし、その鏡の前に立ちました。 デラの目はきらきらと輝いていましたが、顔は20秒の間、色を失っていたのでした。 デラは手早く髪を下ろし、その長さいっぱいまで垂らしました。

 さて、ジェームズ・ディリンガム・ヤング家には、 誇るべき二つのものがありました。 一つはジムの金時計です。 かつてはジムの父、そしてその前にはジムの祖父が持っていたという金時計。 もう一つはデラの髪でした。 シバの女王が通風縦孔の向こう側のアパートに住んでいたとしましょう。 ある日、デラが窓の外にぬれた髪を垂らして乾かそうとしたら、 それだけで、女王様の宝石や宝物は色あせてしまったことでしょう。 また、ソロモン王がビルの管理人をやっていて、宝物は地下室に山積みしていたとしましょう。 ジムが通りがかりに時計を出すたび、王様はうらやましさのあまり、ひげをかきむしったことでしょう。

 さて、そのデラの美しい髪は褐色の小さな滝のようにさざなみをうち、 輝きながら彼女のまわりを流れ落ちていきました。 髪はデラの膝のあたりまで届き、まるで長い衣のようでした。 やがてデラは神経質そうにまた手早く髪をまとめあげました。 ためらいながら1分間じっと立っていました。 が、そのうちに涙が一粒、二粒、すりきれた赤いカーペットに落ちました。デラは褐色の古いジャケットを羽織り、褐色の古い帽子をかぶりました。 スカートをはためかせ、目にはまだ涙を光らせて、 ドアの外に出ると、表通りへ続く階段を降りていきました。
 デラが立ち止まったところの看板には、 「マダム・ソフロニー。ヘア用品なら何でも。」と書いてありました。 デラは階段を一つかけのぼり、胸をどきどきさせながらも気持ちを落ち着けました。 女主人は大柄で、色は白すぎ、冷ややかで、とうてい「ソフロニー」という名前のようには見えませんでした。
 「髪を買ってくださいますか」とデラは尋ねました。
 「買うさ」と女主人は言いました。 「帽子を取って見せなさいよ」
 褐色の滝がさざなみのようにこぼれ落ちました。
 「20ドル」手馴れた手つきで髪を持ち上げて女主人は言いました。
 「すぐにください」とデラは言いました。
 ああ、それから、薔薇のような翼に乗って2時間が過ぎていきました。 …なんて、使い古された比喩は忘れてください。 デラはジムへの贈り物を探してお店を巡っておりました。
 そしてとうとうデラは見つけたのです。 それは確かにジムのため、ジムのためだけに作られたものでした。 それほどすばらしいものはどの店にもありませんでした。 デラは全部の店をひっくり返さんばかりに見たのですから。 それはプラチナの時計鎖で、デザインはシンプルで上品でした。 ごてごてした飾りではなく、 素材のみがその価値を主張していたのです ―― すべてのよきものがそうあるべきなのですが。 その鎖は彼の時計につけるのにふさわしいとまで言えるものでした。 その鎖を見たとたん、これはジムのものだ、とデラにはわかりました。 この鎖はジムに似ていました。 寡黙だが、価値がある ―― この表現は鎖とジムの両者に当てはまりました。 その鎖には21ドルかかり、デラは87セントをもって家に急いで帰りました。 この鎖を時計につければ、 どんな人の前でもちゃんと時間を気にすることができるようになるでしょう。 時計はすばらしかったのですが、 鎖の代わりに古い皮紐をつけていたため、 ジムはこそこそと見るときもあったのです。

 デラが家に着いたとき、興奮はやや醒め、分別と理性が頭をもたげてきました。 ヘアアイロンを取り出し、ガスを着けると、 愛に気前の良さを加えて生じた被害の跡を修繕する作業にかかりました。 そういうのはいつも大変な仕事なのですよ、ねえあなた ―― とてつもなく大きな仕事なのですよ。40分のうちに、デラの髪は小さく集まったカールで覆われました。 髪型のせいで、まるで、ずる休みした学童みたいに見えました。 デラは、鏡にうつる自分の姿を、長い間、注意深く、ためつすがめつ見つめました。 「わたしのことを殺しはしないだろうけれど」とデラは独り言をいいました。 「ジムはわたしのことを見るなり、 コニーアイランドのコーラスガールみたいだって言うわ。 でもわたしに何ができるの ―― ああ、 ほんとうに1ドル87セントで何ができるっていうの?」
 7時にはコーヒーの用意ができ、 フライパンはストーブの上にのり、 チョップを焼く準備ができました。
 ジムは決して遅れることはありませんでした。 デラは時計の鎖を手の中で二重に巻き、 彼がいつも入ってくるドアの近くのテーブルの隅に座りました。 やがて、ジムがはじめの階段を上ってくる足音が聞こえると、デラは一瞬顔が青ざめました。 デラは毎日のちょっとしたことでも小さな祈りを静かに唱える習慣がありましたが、 このときは「神さま。 どうかジムがわたしのことを今でもかわいいと思ってくれますように」とささやきました。
 ドアが開き、ジムが入り、ドアを閉めました。 ジムはやせていて、生真面目な顔つきをしていました。 かわいそうに、まだ22歳なのに ―― 彼は家庭を背負っているのです。 新しいオーバーも必要だし、手袋もしていませんでした。
 ジムは、ドアの内で立ち止まりました。 うずらの匂いにじっとしている猟犬と同じように、そのまま動きませんでした。 ジムの目はデラに釘付けでした。 そしてその目には読み取ることのできない感情が込められていて、 デラは恐くなってしまいました。 それは憤怒ではなく、驚嘆でもなく、拒否でもなく、恐怖でもなく、 デラが心していたどんな感情でもありませんでした。 ジムは顔にその奇妙な表情を浮かべながら、 ただ、じっとデラを見つめていたのです。
 デラはテーブルを回ってジムの方へ歩み寄りました。
 「ジム、ねえ、あなた」デラは声をあげました。 「そんな顔して見ないで。 髪の毛は切って、売っちゃったの。 だって、あなたにプレゼント一つあげずにクリスマスを過ごすなんて絶対できないんだもの。 髪はまた伸びるわ ―― 気にしない、でしょ? こうしなきゃ駄目だったの。 ほら、わたしの髪ってすごく早く伸びるし。 『メリー・クリスマス』って言ってよ、ジム。 そして楽しく過ごしましょ。 どんなに素敵な ―― 綺麗で素敵なプレゼントをあなたに用意したか、 当てられないわよ」

 「髪を切ったって?」とジムは苦労しつつ尋ねました。 まるで、懸命に頭を働かせても明白な事実にたどり着けないようなありさまでした。
 「切って、売っちゃったの」とデラは言いました。 「それでも、わたしのこと、変わらずに好きでいてくれるわよね。 髪がなくても、わたしはわたし、よね?」
 ジムは部屋をさがしものでもするかのように見まわしました。
 「髪がなくなっちゃったって?」ジムは何だか馬鹿になったように言いました。
 「探さなくてもいいのよ」とデラは言いました。 「売っちゃったの。だから、―― 売っちゃったからなくなったのよ。 ねえ、クリスマスイブでしょ。 優しくして。 髪がなくなったのは、あなたのためなのよ。 たぶん、わたしの髪の毛の一本一本まで神様には数えられているでしょうね」 デラは急に真面目になり、優しく続けました。 「でも、わたしがあなたをどれだけ愛しているかは、 誰にもはかることはできないわ。 チョップをかけてもいい、ジム?」
 ジムはぼうっとした状態からはっと戻り、デラを抱きしめました。 さて、それではここで10秒間、 趣を変えたささやかな事柄について控え目に吟味をしてみましょう。 週8ドルと年100万ドル ―― その違いは何でしょうか。 数学者や知恵者に尋ねたら、誤った答えが返って来るでしょう。 東方の賢者は高価な贈り物を持ってきましたが、その中に答えはありませんでした。 何だか暗いことを申しましたが、ここで述べた言明は、後にはっきりと光り輝くことになるのです。

 ジムはオーバーのポケットから包みを取り出すと、 テーブルに投げ出しました。
 「ねえデラ、僕のことを勘違いしないで。 髪型とか肌剃とかシャンプーとか、 そんなもので僕のかわいい女の子を嫌いになったりするもんか。 でも、その包みを開けたら、 はじめのうちしばらく、どうして僕があんな風だったかわかると思うよ」
 白い指がすばやく紐をちぎり紙を破りました。 そして歓喜の叫びが上がり、 それから、ああ、 ヒステリックな涙と嘆きへと女性らしくすぐさま変わっていったのです。 いそいで、そのアパートの主人が必死になって慰めなければなりませんでした。
 包みの中には櫛(くし)が入っていたのです ―― セットになった櫛で、 横と後ろに刺すようになっているものでした。 その櫛のセットは、 デラがブロードウェイのお店の窓で、長い間あがめんばかりに思っていたものでした。 美しい櫛、ピュアな亀甲でできていて、 宝石で縁取りがしてあって ―― 売ってなくなった美しい髪にぴったりでした。 その櫛が高価だということをデラは知っていました。 ですから、心のうちでは、その櫛がただもう欲しくて欲しくてたまらなかったのですけれど、 実際に手に入るなんていう望みはちっとも抱いていなかったのです。 そして、いま、この櫛が自分のものになったのです。 けれども、この髪飾りによって飾られるべき髪の方がすでになくなっていたのでした。
 しかし、デラは櫛を胸に抱きました。 そしてやっとの思いで涙で濡れた目をあげ、微笑んでこう言うことができました。 「わたしの髪はね、とっても早く伸びるのよ、ジム!」
 そしてデラは火で焼かれた小猫のようにジャンプして声をあげました。 「きゃっ、そうだ!」
 自分がもらう美しい贈り物をジムはまだ見ていないのです。 デラは手のひらに贈り物を乗せ、ジムに思いを込めて差し出しました。 貴金属の鈍い光は、 デラの輝くばかりの熱心な気持ちを反射しているかのようでした。
 「ねえ素敵じゃない? 町中を探して見つけたのよ。 あなたの時計にこの鎖をつけたら、 一日に百回でも時間を調べたくなるわよ。 時計、貸してよ。この鎖をつけたらどんな風になるか見たいの」

 デラのこの言葉には従わず、 ジムは椅子にどさりと腰を下ろし、 両手を首の後ろに組んでにっこりと微笑みました。
「ねえデラ。僕達のクリスマスプレゼントは、 しばらくの間、どこかにしまっておくことにしようよ。 いますぐ使うには上等すぎるよ。 櫛を買うお金を作るために、僕は時計を売っちゃったのさ。 さあ、チョップを火にかけてくれよ」

 東方の賢者は、ご存知のように、 賢い人たちでした ―― すばらしく賢い人たちだったんです ―― 飼葉桶の中にいる御子に贈り物を運んできたのです。 東方の賢者がクリスマスプレゼントを贈る、という習慣を考え出したのですね。 彼らは賢明な人たちでしたから、もちろん贈り物も賢明なものでした。 たぶん贈り物がだぶったりしたときには、別の品と交換をすることができる特典もあったでしょうね。 さて、わたくしはこれまで、つたないながらも、 アパートに住む二人の愚かな子供たちに起こった、平凡な物語をお話してまいりました。 二人は愚かなことに、家の最もすばらしい宝物を互いのために台無しにしてしまったのです。 しかしながら、今日の賢者たちへの最後の言葉として、こう言わせていただきましょう。 贈り物をするすべての人の中で、この二人が最も賢明だったのです。 贈り物をやりとりするすべての人の中で、 この二人のような人たちこそ、最も賢い人たちなのです。 世界中のどこであっても、このような人たちが最高の賢者なのです。 彼らこそ、本当の、東方の賢者なのです。
                                                                                                                                                         (第1学年主任:江見)
04:37
2020/08/15

千葉日報のインタビューを受けてくれた人に

| by chishirodai-h
 先日、国語の「新聞」に関して、優秀作に選ばれた3名の方に、千葉日報社のインタビューを受けてもらいましたが、本日の千葉日報にその記事が掲載されました。記事のコピーは廊下にも掲示しておきますが、2学期またこの続きを、今度は全クラス共通でやれれば、と思っています。とりあえず報告でした。
11:01
2020/08/15

「凱風」HP版 夏休み5号

| by chishirodai-h
 8月15日(土)終戦記念日。個人的には毎年、ああ夏が終わった、と思う日です。夏休み、残り2週間余り(まあ、今年の場合はここで大体半分なんですが)。私は今週はずっと「ステイホーム」です。ずっと家にいるので部屋がずいぶんきれいになりました。明日からまた学校生活再開です。月・火の学校見学に備えて掃除もしなくてはいけません。
 連日の猛暑で夜になっても気温が下がらず、朝、窓を開けると熱い空気が流れ込んできて息が詰まりそうになります。昔中国に初めて行ったとき、重慶や西安の暑さに衝撃を受けましたが、今の日本はそれに匹敵する暑さになったようです。この傾向はもうかわらないんだろうなあ。こうした気象変動もまたウイルス発生の原因になっているような気もしますね・・・。
 約束ですので本日は国語の夏休み課題の解答例を載せておきます。自分の答と照らし合わせてみて、疑問に思うことなどあれば連絡ください(文法についてはよくわかっていない人がまだ結構いるはずですので、月曜日に解説動画を撮影して配信します・・・遅くなりましたが、これは平日じゃないと作業ができないのですよ)。

国語総合夏季課題 解答例(※もちろん、表現の仕方はいろいろ違って構いません)

A「沖縄の手記から」

①○「私」
 海軍大尉。医務科分隊長として、小禄飛行場での戦闘で生き残った部下を率いて小禄陣地を脱出して南へ退却する途中で沖縄方面根拠地隊の陣地にたどりつき、ひとときの休息を取っていた。この戦争の戦局がすでに絶望的なものであることは察しているが、海軍の士官として部下を掌握し、今後とも軍指令本部の命令に従って行動しなくてはならない立場の人間である。

 ○「当間キヨ」
  慶良間群島出身、沖縄県立病院外科の看護婦。民間人ではあるが、目の前で死を待つしかない負傷兵達を見殺しにすることが出来ず彼らの手当を続けていた。彼女の家族はすでに米軍の艦砲射撃で全滅しており、天涯孤独となったため、もはやこうして負傷兵の世話をすることだけが生きる目的となっている。


○P.81 何が「自分にもわからない衝動」を引き起こしたのか。

 娘の中に、無残な敗戦の中で久しく見ることのなかった、負傷者を助けたいという強い思いと意志を感じ取って、麻痺しかかっていた感情が揺り動かされたこと。


○P.81 「真っ白い光」とは、何の光か。

 薄明。夜明け前の大地を包むほのかな明るさ、まもなくさす曙光のさきがけの光

○P.83 なぜ、「私」は「まだそこを立ち去る決断をつけかねていた」のか。

 もう無理だと思いつつも、ひたむきな娘の思いを無下に否定することはできなかったから。

○P.85 なぜ「部外者であることなど考えてもみなかった」のか。

 軍関係者でもない限り、ここまで献身的に負傷兵の世話をする人間がいるとは考えられなかったから。

○P.89 「自分の言葉が娘の心に投げかけるかげ」とは、何をさすか。

 自分達がこの地を去ってしまうことによって娘がまた一人きりになってしまうということを知って、失望すること。

○P.91 「そのこと」とは、何を指すか。

 当間キヨが自分達と行動を共にして生き延びること。

○P.95 「すべて」が指しているのは、どの部分か。

 P.94下L.2~「至近距離に・・・そして、当間キヨもその土の下にうずもれている。」
                                           ※最も短く抜くならこの波線部分

○P.95 「その同じ姿勢でうずくまって嗚咽していた時のこと」が指しているのは、どの部分か。
 
 P.89下L.12~「すると、今までかたくなに・・・嗚咽しはじめた。」、以下の部分(会話を含めて、P91上L.3までをとってもよい)。1文ならここだけを抜く。



B「児のそら寝」

①動詞の活用の種類と活用形(参考までに接続も示しておきます)

ありけり。     ラ行変格活用  連用形(連用形に接続する過去の助動詞「けり」が下についている)

せむ。         サ行変格活用  未然形(未然形に接続する意志の助動詞「む」が下についている)

言ひけるを、   ハ行四段活用  連用形(連用形に接続する過去の助動詞「けり」が下についている)

聞きけり。     カ行四段活用  連用形(連用形に接続する過去の助動詞「けり」が下についている)

しいださむを、   サ行四段活用  未然形(未然形に接続する推量の助動詞「む」が下についている)

待ちて           タ行四段活用  連用形(連用形に接続する接続助詞「て」が下についている)

寝ざらむ         ナ行下二段活用 未然形(未然形に接続する打消の助動詞「ず」が下についている)

思ひて           ハ行四段活用  連用形(連用形に接続する接続助詞「て」が下についている)

寄りて           ラ行四段活用  連用形(連用形に接続する接続助詞「て」が下についている)

寝たる           ナ行下二段活用 連用形 (連用形に接続する完了の助動詞「たり」が下についている)

いでくるを       カ行変格活用  連体形(連体形に接続する格助詞「を」が下についている)

待ちけるに       タ行四段活用  連用形(連用形に接続する過去の助動詞「けり」が下についている)

しいだしたる     サ行四段活用  連用形 (連用形に接続する完了の助動詞「たり」が下についている)

ひしめきあひたり ハ行四段活用  連用形 (連用形に接続する完了の助動詞「たり」が下についている)

おどろかさむず   サ行四段活用  未然形(未然形に接続する推量の助動詞「むず」が下についている)

待ちゐたる       ワ行上一段活用 連用形 (連用形に接続する完了の助動詞「たり」が下についている)

申しさぶらはむ   サ行四段活用  連用形(敬語動詞[=用言]「さぶらふ」が下にあるので連用形)

おどろかせ       カ行四段活用  未然形(未然形に接続する尊敬の助動詞「す」が下についている)

言ふを、         ハ行四段活用  連体形(連体形に接続する格助詞「を」が下についている)

思へども、       ハ行四段活用  已然形(已然形に接続する接続助詞「ども」が下についている)

いらへむ         ハ行下二段活用 未然形(未然形に接続する意志の助動詞「む」が下についている)

待ちける         タ行四段活用  連用形(連用形に接続する過去の助動詞「けり」が下についている)

思ふとて         ハ行四段活用  連体形(これは、上に係助詞「ぞ」があるので、係り結びで連体形)

呼ばれて         バ行四段活用  未然形(未然形に接続する受け身の助動詞「る」が下についている)

いらへむ         ハ行下二段活用 未然形(未然形に接続する意志の助動詞「む」が下についている)

念じて           ザ行上二段活用 連用形(連用形に接続する接続助詞「て」が下についている)

寝たる           ナ行下二段活用 連用形 (連用形に接続する完了の助動詞「たり」が下についている)

起こしたてまつり  サ行四段活用  連用形(敬語動詞[=用言]「たてまつる」が下にあるので連用形)

寝入りたまひ   ラ行四段活用  連用形(敬語動詞[=用言]「たまふ」が下にあるので連用形)

しければ、       サ行変格活用  連用形(連用形に接続する過去の助動詞「けり」が下についている)

思ひて           ハ行四段活用  連用形(連用形に接続する接続助詞「て」が下についている)

起こせかし       サ行四段活用  命令形(終助詞「かし」が下にあるので文末に相当、意味から考える)

聞けば           カ行四段活用  已然形(順接確定条件の接続助詞「ば」が下についている)

食ひに           ハ行四段活用  連用形(格助詞「に」が下についている・・・※本来格助詞「に」は体言もしくは連体形につくが、これは同じ動詞の間に入って「ひたすら~する」という強意の表現になっている特別な形)

食ふ音           ハ行四段活用  連体形(名詞[=体言]「音」が下にあるので連体形)

しければ、       サ行変格活用  連用形(連用形に接続する過去の助動詞「けり」が下についている)

いらへたり       ハ行下二段活用 連用形 (連用形に接続する完了の助動詞「たり」が下についている)

わらふこと       ハ行四段活用  連体形(名詞[=体言]「こと」が下にあるので連体形)


②単語の意味 ☆これは各自ちゃんと辞書を引きましょう・・・参考までに副教材を活用できる部分だけ・・・便覧(P.548~)にもちゃんと載っているはずですので、そちらも見ておきましょう。

 さだめて・・・文法テキストP.115参照(これはいわゆる「呼応の副詞」です)
   さぶらふ・・・文法テキストP.136・P.124/125参照 敬語動詞はこれから学習するものですが、この段には他に「たてまつる」「たまふ」も出て来ていますのでこの際少し説明を読んでおくといいでしょう。


 読書感想文の参考になるかどうかわかりませんが、今年の芥川賞受賞作「首里の馬」と「破局」を読了しました。最近の芥川賞受賞作品は非常に閉じた世界を描くものが多くて面白くないと思っていたのですが、今年の「首里の馬」は割合面白かった(「破局」は生理的に余り好きになれないけれど・・・)。全く個人的な印象ですが、現代文学が描こうとするものが、社会の中で立ち位置を定められずに独自の世界の中に閉じこもろうとする人間から、社会という枠組みからはみ出した別の場所に世界を見いだす人間を描く方向に進みつつあるのあるかなという気がしました。とりあえず、この2作が掲載されている「文藝春秋」は学校に持って来ておきますので読みたい人があればお貸しします。                                           (第1学年主任:江見)
05:00
2020/08/11

「凱風」HP版 夏休み4号

| by chishirodai-h

 おはようございます。連日の猛暑日でなかなか厳しいお盆休みとなっています。皆さん、体調は大丈夫でしょうか。これだけ暑くなると命の危険さえ感じますから、この時期部活が休みになったのは正解でしたね。それでも朝、空が明るくなる時刻は少しずつ遅くなってきています。日は確かに短くなってきていて、暦の上では確かに秋なのだなということは実感できます。世の中はコロナ禍と熱中症の危険性とで沈み込んでいますが、季節は確かに移ろい、そして遠くないうちにこの深刻な事態も必ず落ちつくということを信じたいと思います。
 さて、このところ続けざまに読書感想文に関するお問い合わせがありました。改めて確認します。読書感想文は、課題図書もしくは自由のいずれか1つを書けばいいです。ですから提出するのは原稿用紙5枚文です。
 このお盆休み中にやっておこうという人が多いということなんでしょうね。このHPもどれだけ見てもらっているのかちょっと心配ですが、それでもまあ書いておきます(メッセージをいただいた分にはメッセージをお返ししています)。

 改めて思うけれど皆さん、本当に本を読むのが苦痛なんですね。どうしたものか・・・。だとすれば読書感想文の書き方なんか書いても意味がないのかもしれないけれど・・・そこで今日は「どうしても読むなければこれでも読んでみたらどうだろうか」という芥川龍之介の短編を掲載しておきます。よければ活用してください(読んでみて質問があればいつでもお受けします・・・解説が必要な場合も)。

「かちかち山」

 童話時代のうす明りの中に、一人の老人と一頭の兎とは、舌切雀のかすかな羽音を聞きながら、しづかに老人の妻の死をなげいてゐる。とほくに懶い響を立ててゐるのは、鬼ヶ島へ通ふ夢の海の、永久にくづれる事のない波であらう。
  老人の妻の屍骸を埋めた土の上には、花のない桜の木が、ほそい青銅の枝を、細く空にのばしてゐる。その木の上の空には、あけ方の半透明な光が漂つて、吐息ほどの風さへない。
  やがて、兎は老人をいたわりながら、前足をあげて、海辺につないである二艘の舟を指さした。舟の一つは白く、一つは墨をなすつたやうに黒い。
  老人は、涙にぬれた顔をあげて、頷いた。
  童話時代のうす明りの中に、一人の老人と一頭の兎とは、花のない桜の木の下に、互に互をなぐさめながら、力なく別れをつげた。老人は、蹲つたまま泣いてゐる。兎は何度も後をふりむきながら、舟の方へ歩いてゆく。その空には、舌切雀のかすかな羽音がして、あけ方の半透明な光も、何時か少しづつひろがつて来た。
  黒い舟の上には、さつきから、一頭の狸が、ぢつと波の音を聞いてゐる。これは龍宮の燈火の油をぬすむつもりであらうか。或は又、水の中に住む赤魚の恋を妬んででもゐるのであらうか。
  兎は、狸の傍に近づいた。さうして、彼等は徐に遠い昔の話をし始めた。彼等が、火の燃える山と砂の流れる河との間にゐて、おごそかに獣の命をまもつてゐた「むかしむかし」の話である。
  童話時代のうす明りの中に、一頭の兎と一頭の狸とは、それぞれ白い舟と黒い舟とに乗つて、静に夢の海へ漕いで出た。永久にくづれる事のない波は、善悪の舟をめぐつて、懶い子守唄をうたつてゐる。
  花のない桜の木の下にゐた老人は、この時漸頭をあげて、海の上へ眼をやつた。
  くもりながら、白く光つてゐる海の上には、二頭の獣が、最後の争ひをつづけてゐる。除に沈んで行く黒い舟には、狸が乗つてゐるのではなからうか。さうして、その近くに浮いてゐる、白い舟には、兎が乗つてゐるのではなからうか。
  老人は、涙にぬれた眼をかがやかせて、海の上の兎を扶けるやうに、高く両の手をさしあげた。
  見よ。それと共に、花のない桜の木には、貝殻のやうな花がさいた。あけ方の半透明な光にあふれた空にも、青ざめた金いろの日輪が、さし昇つた。
  童話時代の明け方に、――獣性の獣性を亡ぼす争ひに、歓喜する人間を象徴しようとするのであらう、日輪は、さうして、その下にさく象嵌のやうな桜の花は。


「蜜柑」

 或曇つた冬の日暮である。私は横須賀發上り二等客車の隅に腰を下して、ぼんやり發車の笛を待つてゐた。とうに電燈のついた客車の中には、珍らしく私の外に一人も乘客はゐなかつた。外を覗くと、うす暗いプラットフォオムにも、今日は珍らしく見送りの人影さへ跡を絶つて、唯、檻に入れられた小犬が一匹、時時悲しさうに、吠え立ててゐた。これらはその時の私の心もちと、不思議な位似つかはしい景色だつた。私の頭の中には云ひやうのない疲勞と倦怠とが、まるで雪曇りの空のやうなどんよりした影を落してゐた。私は外套のポケットへぢつと兩手をつつこんだ儘、そこにはひつてゐる夕刊を出して見ようと云ふ元氣さへ起らなかつた。
  が、やがて發車の笛が鳴つた。私はかすかな心の寛ぎを感じながら、後の窓枠へ頭をもたせて、眼の前の停車場がずるずると後ずさりを始めるのを待つともなく待ちかまへてゐた。所がそれよりも先にけたたましい日和下駄の音が、改札口の方から聞え出したと思ふと、間もなく車掌の何か云ひ罵る聲と共に、私の乘つてゐる二等室の戸ががらりと開いて十三四の小娘が一人、慌しく中へはひつて來た。と同時に一つづしりと搖れて、徐に汽車は動き出した。一本づつ眼をくぎつて行くプラットフォオムの柱、置き忘れたやうな運水車、それから車内の誰かに祝儀の禮を云つてゐる赤帽――さう云ふすべては、窓へ吹きつける煤煙の中に、未練がましく後へ倒れて行つた。私は漸くほつとした心もちになつて、卷煙草に火をつけながら、始て懶い睚をあげて、前の席に腰を下してゐた小娘の顏を一瞥した。
  それは油氣のない髮をひつつめの銀杏返しに結つて、横なでの痕のある皸だらけの兩頬を氣持の惡い程赤く火照らせた、如何にも田舍者らしい娘だつた。しかも垢じみた萌黄色の毛絲の襟卷がだらりと垂れ下つた膝の上には、大きな風呂敷包みがあつた。その又包みを抱いた霜燒けの手の中には、三等の赤切符が大事さうにしつかり握られてゐた。私はこの小娘の下品な顏だちを好まなかつた。それから彼女の服裝が不潔なのもやはり不快だつた。最後にその二等と三等との區別さへも辨へない愚鈍な心が腹立たしかつた。だから卷煙草に火をつけた私は、一つにはこの小娘の存在を忘れたいと云ふ心もちもあつて、今度はポケットの夕刊を漫然と膝の上へひろげて見た。すると其時夕刊の紙面に落ちてゐた外光が、突然電燈の光に變つて、刷の惡い何欄かの活字が意外な位鮮に私の眼の前へ浮んで來た。云ふ迄もなく汽車は今、横須賀線に多い隧道の最初のそれへはひつたのである。
  しかしその電燈の光に照らされた夕刊の紙面を見渡しても、やはり私の憂鬱を慰むべく世間は餘りに平凡な出來事ばかりで持ち切つてゐた。講和問題、新婦、新郎、涜職事件、死亡廣告――私は隧道へはひつた一瞬間、汽車の走つてゐる方向が逆になつたやうな錯覺を感じながら、それらの索漠とした記事から記事へ殆、機械的に眼を通した。が、その間も勿論あの小娘が、恰も卑俗な現實を人間にしたやうな面もちで、私の前に坐つてゐる事を絶えず意識せずにはゐられなかつた。この隧道の中の汽車と、この田舍者の小娘と、さうして又この平凡な記事に埋つてゐる夕刊と、――これが象徴でなくて何であらう。不可解な、下等な、退屈な人生の象徴でなくて何であらう。私は一切がくだらなくなつて、讀みかけた夕刊を抛り出すと、又窓枠に頭を靠せながら、死んだやうに眼をつぶつて、うつらうつらし始めた。
  それから幾分か過ぎた後であつた。ふと何かに脅されたやうな心もちがして、思はずあたりを見まはすと、何時の間にか例の小娘が、向う側から席を私の隣へ移して、頻に窓を開けようとしてゐる。が、重い硝子戸は中中思ふやうにあがらないらしい。あの皸だらけの頬は愈、赤くなつて、時時鼻洟をすすりこむ音が、小さな息の切れる聲と一しよに、せはしなく耳へはひつて來る。これは勿論私にも、幾分ながら同情を惹くに足るものには相違なかつた。しかし汽車が今將に隧道の口へさしかからうとしてゐる事は、暮色の中に枯草ばかり明い兩側の山腹が、間近く窓側に迫つて來たのでも、すぐに合點の行く事であつた。にも關らずこの小娘は、わざわざしめてある窓の戸を下さうとする、――その理由が私には呑みこめなかつた。いや、それが私には、單にこの小娘の氣まぐれだとしか考へられなかつた。だから私は腹の底に依然として險しい感情を蓄へながら、あの霜燒けの手が硝子戸を擡げようとして惡戰苦鬪する容子を、まるでそれが永久に成功しない事でも祈るやうな冷酷な眼で眺めてゐた。すると間もなく凄じい音をはためかせて、汽車が隧道へなだれこむと同時に、小娘の開けようとした硝子戸は、とうとうばたりと下へ落ちた。さうしてその四角な穴の中から、煤を溶したやうなどす黒い空氣が、俄に息苦しい煙になつて濛濛と車内へ漲り出した。元來咽喉を害してゐた私は、手巾を顏に當てる暇さへなく、この煙を滿面に浴びせられたおかげで、殆、息もつけない程咳きこまなければならなかつた。が、小娘は私に頓著する氣色も見えず、窓から外へ首をのばして、闇を吹く風に銀杏返しの鬢の毛を戰がせながら、ぢつと汽車の進む方向を見やつてゐる。その姿を煤煙と電燈の光との中に眺めた時、もう窓の外が見る見る明くなつて、そこから土の※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)や枯草の※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)や水の※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)が冷かに流れこんで來なかつたなら、漸く咳きやんだ私は、この見知らない小娘を頭ごなしに叱りつけてでも、又元の通り窓の戸をしめさせたのに相違なかつたのである。
  しかし汽車はその時分には、もう安安と隧道を辷りぬけて、枯草の山と山との間に挾まれた、或貧しい町はづれの踏切りに通りかかつてゐた。踏切りの近くには、いづれも見すぼらしい藁屋根や瓦屋根がごみごみと狹苦しく建てこんで、踏切り番が振るのであらう、唯一旒のうす白い旗が懶げに暮色を搖つてゐた。やつと隧道を出たと思ふ――その時その蕭索とした踏切りの柵の向うに、私は頬の赤い三人の男の子が、目白押しに竝んで立つてゐるのを見た。彼等は皆、この曇天に押しすくめられたかと思ふ程、揃つて脊が低かつた。さうして又この町はづれの陰慘たる風物と同じやうな色の著物を著てゐた。それが汽車の通るのを仰ぎ見ながら、一齊に手を擧げるが早いか、いたいけな喉を高く反らせて、何とも意味の分らない喊聲を一生懸命に迸らせた。するとその瞬間である。窓から半身を乘り出してゐた例の娘が、あの霜燒けの手をつとのばして、勢よく左右に振つたと思ふと、忽ち心を躍らすばかり暖な日の色に染まつてゐる蜜柑が凡そ五つ六つ、汽車を見送つた子供たちの上へばらばらと空から降つて來た。私は思はず息を呑んだ。さうして刹那に一切を了解した。小娘は、恐らくはこれから奉公先へ赴かうとしてゐる小娘は、その懷に藏してゐた幾顆の蜜柑を窓から投げて、わざわざ踏切りまで見送りに來た弟たちの勞に報いたのである。
  暮色を帶びた町はづれの踏切りと、小鳥のやうに聲を擧げた三人の子供たちと、さうしてその上に亂落する鮮な蜜柑の色と――すべては汽車の窓の外に、瞬く暇もなく通り過ぎた。が、私の心の上には、切ない程はつきりと、この光景が燒きつけられた。さうしてそこから、或得體の知れない朗な心もちが湧き上つて來るのを意識した。私は昂然と頭を擧げて、まるで別人を見るやうにあの小娘を注視した。小娘は何時かもう私の前の席に返つて、不相變皸だらけの頬を萌黄色の毛絲の襟卷に埋めながら、大きな風呂敷包みを抱へた手に、しつかりと三等切符を握つてゐる。……
 私はこの時始めて、云ひやうのない疲勞と倦怠とを、さうして又不可解な、下等な、退屈な人生を僅に忘れる事が出來たのである。


「杜子春」

  或春の日暮です。
  唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました。
  若者は名を杜子春といって、元は金持の息子でしたが、今は財産を費い尽して、その日の暮しにも困る位、憐な身分になっているのです。
  何しろその頃洛陽といえば、天下に並ぶもののない、繁昌を極めた都ですから、往来にはまだしっきりなく、人や車が通っていました。門一ぱいに当っている、油のような夕日の光の中に、老人のかぶった紗の帽子や、土耳古の女の金の耳環や、白馬に飾った色糸の手綱が、絶えず流れて行く容子は、まるで画のような美しさです。
  しかし杜子春は相変らず、門の壁に身を凭せて、ぼんやり空ばかり眺めていました。空には、もう細い月が、うらうらと靡いた霞の中に、まるで爪の痕かと思う程、かすかに白く浮んでいるのです。
 「日は暮れるし、腹は減るし、その上もうどこへ行っても、泊めてくれる所はなさそうだし――こんな思いをして生きている位なら、一そ川へでも身を投げて、死んでしまった方がましかも知れない」
  杜子春はひとりさっきから、こんな取りとめもないことを思いめぐらしていたのです。
  するとどこからやって来たか、突然彼の前へ足を止めた、片目眇の老人があります。それが夕日の光を浴びて、大きな影を門へ落すと、じっと杜子春の顔を見ながら、
 「お前は何を考えているのだ」と、横柄に声をかけました。
 「私ですか。私は今夜寝る所もないので、どうしたものかと考えているのです」
  老人の尋ね方が急でしたから、杜子春はさすがに眼を伏せて、思わず正直な答をしました。
 「そうか。それは可哀そうだな」
  老人は暫く何事か考えているようでしたが、やがて、往来にさしている夕日の光を指さしながら、
 「ではおれが好いことを一つ教えてやろう。今この夕日の中に立って、お前の影が地に映ったら、その頭に当る所を夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの黄金が埋まっている筈だから」
 「ほんとうですか」
  杜子春は驚いて、伏せていた眼を挙げました。ところが更に不思議なことには、あの老人はどこへ行ったか、もうあたりにはそれらしい、影も形も見当りません。その代り空の月の色は前よりも猶白くなって、休みない往来の人通りの上には、もう気の早い蝙蝠が二三匹ひらひら舞っていました。

      二

  杜子春は一日の内に、洛陽の都でも唯一人という大金持になりました。あの老人の言葉通り、夕日に影を映して見て、その頭に当る所を、夜中にそっと掘って見たら、大きな車にも余る位、黄金が一山出て来たのです。
  大金持になった杜子春は、すぐに立派な家を買って、玄宗皇帝にも負けない位、贅沢な暮しをし始めました。蘭陵の酒を買わせるやら、桂州の竜眼肉をとりよせるやら、日に四度色の変る牡丹を庭に植えさせるやら、白孔雀を何羽も放し飼いにするやら、玉を集めるやら、錦を縫わせるやら、香木の車を造らせるやら、象牙の椅子を誂えるやら、その贅沢を一々書いていては、いつになってもこの話がおしまいにならない位です。
  するとこういう噂を聞いて、今までは路で行き合っても、挨拶さえしなかった友だちなどが、朝夕遊びにやって来ました。それも一日毎に数が増して、半年ばかり経つ内には、洛陽の都に名を知られた才子や美人が多い中で、杜子春の家へ来ないものは、一人もない位になってしまったのです。杜子春はこの御客たちを相手に、毎日酒盛りを開きました。その酒盛りの又盛なことは、中々口には尽されません。極かいつまんだだけをお話しても、杜子春が金の杯に西洋から来た葡萄酒を汲んで、天竺生れの魔法使が刀を呑んで見せる芸に見とれていると、そのまわりには二十人の女たちが、十人は翡翠の蓮の花を、十人は瑪瑙の牡丹の花を、いずれも髪に飾りながら、笛や琴を節面白く奏しているという景色なのです。
  しかしいくら大金持でも、御金には際限がありますから、さすがに贅沢家の杜子春も、一年二年と経つ内には、だんだん貧乏になり出しました。そうすると人間は薄情なもので、昨日までは毎日来た友だちも、今日は門の前を通ってさえ、挨拶一つして行きません。ましてとうとう三年目の春、又杜子春が以前の通り、一文無しになって見ると、広い洛陽の都の中にも、彼に宿を貸そうという家は、一軒もなくなってしまいました。いや、宿を貸すどころか、今では椀に一杯の水も、恵んでくれるものはないのです。
  そこで彼は或日の夕方、もう一度あの洛陽の西の門の下へ行って、ぼんやり空を眺めながら、途方に暮れて立っていました。するとやはり昔のように、片目眇の老人が、どこからか姿を現して、
 「お前は何を考えているのだ」と、声をかけるではありませんか。
  杜子春は老人の顔を見ると、恥しそうに下を向いたまま、暫くは返事もしませんでした。が、老人はその日も親切そうに、同じ言葉を繰返しますから、こちらも前と同じように、
 「私は今夜寝る所もないので、どうしたものかと考えているのです」と、恐る恐る返事をしました。
 「そうか。それは可哀そうだな。ではおれが好いことを一つ教えてやろう。今この夕日の中へ立って、お前の影が地に映ったら、その胸に当る所を、夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの黄金が埋まっている筈だから」
  老人はこう言ったと思うと、今度もまた人ごみの中へ、掻き消すように隠れてしまいました。
  杜子春はその翌日から、忽ち天下第一の大金持に返りました。と同時に相変らず、仕放題な贅沢をし始めました。庭に咲いている牡丹の花、その中に眠っている白孔雀、それから刀を呑んで見せる、天竺から来た魔法使――すべてが昔の通りなのです。
  ですから車に一ぱいにあった、あの夥しい黄金も、又三年ばかり経つ内には、すっかりなくなってしまいました。

      三

 「お前は何を考えているのだ」
  片目眇の老人は、三度杜子春の前へ来て、同じことを問いかけました。勿論彼はその時も、洛陽の西の門の下に、ほそぼそと霞を破っている三日月の光を眺めながら、ぼんやり佇んでいたのです。
 「私ですか。私は今夜寝る所もないので、どうしようかと思っているのです」
 「そうか。それは可哀そうだな。ではおれが好いことを教えてやろう。今この夕日の中へ立って、お前の影が地に映ったら、その腹に当る所を、夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの――」
  老人がここまで言いかけると、杜子春は急に手を挙げて、その言葉を遮りました。
 「いや、お金はもういらないのです」
 「金はもういらない? ははあ、では贅沢をするにはとうとう飽きてしまったと見えるな」
  老人は審しそうな眼つきをしながら、じっと杜子春の顔を見つめました。
 「何、贅沢に飽きたのじゃありません。人間というものに愛想がつきたのです」
  杜子春は不平そうな顔をしながら、突慳貪にこう言いました。
 「それは面白いな。どうして又人間に愛想が尽きたのだ?」
 「人間は皆薄情です。私が大金持になった時には、世辞も追従もしますけれど、一旦貧乏になって御覧なさい。柔しい顔さえもして見せはしません。そんなことを考えると、たといもう一度大金持になったところが、何にもならないような気がするのです」
  老人は杜子春の言葉を聞くと、急ににやにや笑い出しました。
 「そうか。いや、お前は若い者に似合わず、感心に物のわかる男だ。ではこれからは貧乏をしても、安らかに暮して行くつもりか」
  杜子春はちょいとためらいました。が、すぐに思い切った眼を挙げると、訴えるように老人の顔を見ながら、
 「それも今の私には出来ません。ですから私はあなたの弟子になって、仙術の修業をしたいと思うのです。いいえ、隠してはいけません。あなたは道徳の高い仙人でしょう。仙人でなければ、一夜の内に私を天下第一の大金持にすることは出来ない筈です。どうか私の先生になって、不思議な仙術を教えて下さい」
  老人は眉をひそめたまま、暫くは黙って、何事か考えているようでしたが、やがて又にっこり笑いながら、
 「いかにもおれは峨眉山に棲んでいる、鉄冠子という仙人だ。始めお前の顔を見た時、どこか物わかりが好さそうだったから、二度まで大金持にしてやったのだが、それ程仙人になりたければ、おれの弟子にとり立ててやろう」と、快く願を容れてくれました。
  杜子春は喜んだの、喜ばないのではありません。老人の言葉がまだ終らない内に、彼は大地に額をつけて、何度も鉄冠子に御時宜をしました。
 「いや、そう御礼などは言って貰うまい。いくらおれの弟子にしたところが、立派な仙人になれるかなれないかは、お前次第で決まることだからな。――が、ともかくもまずおれと一しょに、峨眉山の奥へ来て見るが好い。おお、幸、ここに竹杖が一本落ちている。では早速これへ乗って、一飛びに空を渡るとしよう」
  鉄冠子はそこにあった青竹を一本拾い上げると、口の中に咒文を唱えながら、杜子春と一しょにその竹へ、馬にでも乗るように跨りました。すると不思議ではありませんか。竹杖は忽ち竜のように、勢よく大空へ舞い上って、晴れ渡った春の夕空を峨眉山の方角へ飛んで行きました。
  杜子春は胆をつぶしながら、恐る恐る下を見下しました。が、下には唯青い山々が夕明りの底に見えるばかりで、あの洛陽の都の西の門は、(とうに霞に紛れたのでしょう)どこを探しても見当りません。その内に鉄冠子は、白い鬢の毛を風に吹かせて、高らかに歌を唱い出しました。

朝に北海に遊び、暮には蒼梧。
袖裏の青蛇、胆気粗なり。
 三たび岳陽に入れども、人識らず。
 朗吟して、飛過す洞庭湖。


      四

  二人を乗せた青竹は、間もなく峨眉山へ舞い下りました。
  そこは深い谷に臨んだ、幅の広い一枚岩の上でしたが、よくよく高い所だと見えて、中空に垂れた北斗の星が、茶碗程の大きさに光っていました。元より人跡の絶えた山ですから、あたりはしんと静まり返って、やっと耳にはいるものは、後の絶壁に生えている、曲りくねった一株の松が、こうこうと夜風に鳴る音だけです。
  二人がこの岩の上に来ると、鉄冠子は杜子春を絶壁の下に坐らせて、
 「おれはこれから天上へ行って、西王母に御眼にかかって来るから、お前はその間ここに坐って、おれの帰るのを待っているが好い。多分おれがいなくなると、いろいろな魔性が現れて、お前をたぶらかそうとするだろうが、たといどんなことが起ろうとも、決して声を出すのではないぞ。もし一言でも口を利いたら、お前は到底仙人にはなれないものだと覚悟をしろ。好いか。天地が裂けても、黙っているのだぞ」と言いました。
 「大丈夫です。決して声なぞは出しません。命がなくなっても、黙っています」
 「そうか。それを聞いて、おれも安心した。ではおれは行って来るから」
  老人は杜子春に別れを告げると、又あの竹杖に跨って、夜目にも削ったような山々の空へ、一文字に消えてしまいました。
  杜子春はたった一人、岩の上に坐ったまま、静に星を眺めていました。するとかれこれ半時ばかり経って、深山の夜気が肌寒く薄い着物に透り出した頃、突然空中に声があって、
 「そこにいるのは何者だ」と、叱りつけるではありませんか。
  しかし杜子春は仙人の教通り、何とも返事をしずにいました。
  ところが又暫くすると、やはり同じ声が響いて、
 「返事をしないと立ちどころに、命はないものと覚悟しろ」と、いかめしく嚇しつけるのです。
  杜子春は勿論黙っていました。
  と、どこから登って来たか、爛々と眼を光らせた虎が一匹、忽然と岩の上に躍り上って、杜子春の姿を睨みながら、一声高く哮りました。のみならずそれと同時に、頭の上の松の枝が、烈しくざわざわ揺れたと思うと、後の絶壁の頂からは、四斗樽程の白蛇が一匹、炎のような舌を吐いて、見る見る近くへ下りて来るのです。
  杜子春はしかし平然と、眉毛も動かさずに坐っていました。
  虎と蛇とは、一つ餌食を狙って、互に隙でも窺うのか、暫くは睨合いの体でしたが、やがてどちらが先ともなく、一時に杜子春に飛びかかりました。が虎の牙に噛まれるか、蛇の舌に呑まれるか、杜子春の命は瞬く内に、なくなってしまうと思った時、虎と蛇とは霧の如く、夜風と共に消え失せて、後には唯、絶壁の松が、さっきの通りこうこうと枝を鳴らしているばかりなのです。杜子春はほっと一息しながら、今度はどんなことが起るかと、心待ちに待っていました。
  すると一陣の風が吹き起って、墨のような黒雲が一面にあたりをとざすや否や、うす紫の稲妻がやにわに闇を二つに裂いて、凄じく雷が鳴り出しました。いや、雷ばかりではありません。それと一しょに瀑のような雨も、いきなりどうどうと降り出したのです。杜子春はこの天変の中に、恐れ気もなく坐っていました。風の音、雨のしぶき、それから絶え間ない稲妻の光、――暫くはさすがの峨眉山も、覆るかと思う位でしたが、その内に耳をもつんざく程、大きな雷鳴が轟いたと思うと、空に渦巻いた黒雲の中から、まっ赤な一本の火柱が、杜子春の頭へ落ちかかりました。
  杜子春は思わず耳を抑えて、一枚岩の上へひれ伏しました。が、すぐに眼を開いて見ると、空は以前の通り晴れ渡って、向うに聳えた山々の上にも、茶碗ほどの北斗の星が、やはりきらきら輝いています。して見れば今の大あらしも、あの虎や白蛇と同じように、鉄冠子の留守をつけこんだ、魔性の悪戯に違いありません。杜子春は漸く安心して、額の冷汗を拭いながら、又岩の上に坐り直しました。
  が、そのため息がまだ消えない内に、今度は彼の坐っている前へ、金の鎧を着下した、身の丈三丈もあろうという、厳かな神将が現れました。神将は手に三叉の戟を持っていましたが、いきなりその戟の切先を杜子春の胸もとへ向けながら、眼を嗔らせて叱りつけるのを聞けば、
 「こら、その方は一体何物だ。この峨眉山という山は、天地開闢の昔から、おれが住居をしている所だぞ。それも憚らずたった一人、ここへ足を踏み入れるとは、よもや唯の人間ではあるまい。さあ命が惜しかったら、一刻も早く返答しろ」と言うのです。
  しかし杜子春は老人の言葉通り、黙然と口を噤んでいました。
 「返事をしないか。――しないな。好し。しなければ、しないで勝手にしろ。その代りおれの眷属たちが、その方をずたずたに斬ってしまうぞ」
  神将は戟を高く挙げて、向うの山の空を招きました。その途端に闇がさっと裂けると、驚いたことには無数の神兵が、雲の如く空に充満ちて、それが皆槍や刀をきらめかせながら、今にもここへ一なだれに攻め寄せようとしているのです。
  この景色を見た杜子春は、思わずあっと叫びそうにしましたが、すぐに又鉄冠子の言葉を思い出して、一生懸命に黙っていました。神将は彼が恐れないのを見ると、怒ったの怒らないのではありません。
 「この剛情者め。どうしても返事をしなければ、約束通り命はとってやるぞ」
  神将はこう喚くが早いか、三叉の戟を閃かせて、一突きに杜子春を突き殺しました。そうして峨眉山もどよむ程、からからと高く笑いながら、どこともなく消えてしまいました。勿論この時はもう無数の神兵も、吹き渡る夜風の音と一しょに、夢のように消え失せた後だったのです。
  北斗の星は又寒そうに、一枚岩の上を照らし始めました。絶壁の松も前に変らず、こうこうと枝を鳴らせています。が、杜子春はとうに息が絶えて、仰向けにそこへ倒れていました。

      五

  杜子春の体は岩の上へ、仰向けに倒れていましたが、杜子春の魂は、静に体から抜け出して、地獄の底へ下りて行きました。
  この世と地獄との間には、闇穴道という道があって、そこは年中暗い空に、氷のような冷たい風がぴゅうぴゅう吹き荒んでいるのです。杜子春はその風に吹かれながら、暫くは唯木の葉のように、空を漂って行きましたが、やがて森羅殿という額の懸った立派な御殿の前へ出ました。
  御殿の前にいた大勢の鬼は、杜子春の姿を見るや否や、すぐにそのまわりを取り捲いて、階の前へ引き据えました。階の上には一人の王様が、まっ黒な袍に金の冠をかぶって、いかめしくあたりを睨んでいます。これは兼ねて噂に聞いた、閻魔大王に違いありません。杜子春はどうなることかと思いながら、恐る恐るそこへ跪いていました。
 「こら、その方は何の為に、峨眉山の上へ坐っていた?」
  閻魔大王の声は雷のように、階の上から響きました。杜子春は早速その問に答えようとしましたが、ふと又思い出したのは、「決して口を利くな」という鉄冠子の戒めの言葉です。そこで唯頭を垂れたまま、唖のように黙っていました。すると閻魔大王は、持っていた鉄の笏を挙げて、顔中の鬚を逆立てながら、
 「その方はここをどこだと思う? 速に返答をすれば好し、さもなければ時を移さず、地獄の呵責に遇わせてくれるぞ」と、威丈高に罵りました。
  が、杜子春は相変らず唇一つ動かしません。それを見た閻魔大王は、すぐに鬼どもの方を向いて、荒々しく何か言いつけると、鬼どもは一度に畏って、忽ち杜子春を引き立てながら、森羅殿の空へ舞い上りました。
  地獄には誰でも知っている通り、剣の山や血の池の外にも、焦熱地獄という焔の谷や極寒地獄という氷の海が、真暗な空の下に並んでいます。鬼どもはそういう地獄の中へ、代る代る杜子春を抛りこみました。ですから杜子春は無残にも、剣に胸を貫かれるやら、焔に顔を焼かれるやら、舌を抜かれるやら、皮を剥がれるやら、鉄の杵に撞かれるやら、油の鍋に煮られるやら、毒蛇に脳味噌を吸われるやら、熊鷹に眼を食われるやら、――その苦しみを数え立てていては、到底際限がない位、あらゆる責苦に遇わされたのです。それでも杜子春は我慢強く、じっと歯を食いしばったまま、一言も口を利きませんでした。
  これにはさすがの鬼どもも、呆れ返ってしまったのでしょう。もう一度夜のような空を飛んで、森羅殿の前へ帰って来ると、さっきの通り杜子春を階の下に引き据えながら、御殿の上の閻魔大王に、
 「この罪人はどうしても、ものを言う気色がございません」と、口を揃えて言上しました。
  閻魔大王は眉をひそめて、暫く思案に暮れていましたが、やがて何か思いついたと見えて、
 「この男の父母は、畜生道に落ちている筈だから、早速ここへ引き立てて来い」と、一匹の鬼に言いつけました。
  鬼は忽ち風に乗って、地獄の空へ舞い上りました。と思うと、又星が流れるように、二匹の獣を駆り立てながら、さっと森羅殿の前へ下りて来ました。その獣を見た杜子春は、驚いたの驚かないのではありません。なぜかといえばそれは二匹とも、形は見すぼらしい痩せ馬でしたが、顔は夢にも忘れない、死んだ父母の通りでしたから。
 「こら、その方は何のために、峨眉山の上に坐っていたか、まっすぐに白状しなければ、今度はその方の父母に痛い思いをさせてやるぞ」
  杜子春はこう嚇されても、やはり返答をしずにいました。
 「この不孝者めが。その方は父母が苦しんでも、その方さえ都合が好ければ、好いと思っているのだな」
  閻魔大王は森羅殿も崩れる程、凄じい声で喚きました。
 「打て。鬼ども。その二匹の畜生を、肉も骨も打ち砕いてしまえ」
  鬼どもは一斉に「はっ」と答えながら、鉄の鞭をとって立ち上ると、四方八方から二匹の馬を、未練未釈なく打ちのめしました。鞭はりゅうりゅうと風を切って、所嫌わず雨のように、馬の皮肉を打ち破るのです。馬は、――畜生になった父母は、苦しそうに身を悶えて、眼には血の涙を浮べたまま、見てもいられない程嘶き立てました。
 「どうだ。まだその方は白状しないか」
  閻魔大王は鬼どもに、暫く鞭の手をやめさせて、もう一度杜子春の答を促しました。もうその時には二匹の馬も、肉は裂け骨は砕けて、息も絶え絶えに階の前へ、倒れ伏していたのです。
  杜子春は必死になって、鉄冠子の言葉を思い出しながら、緊く眼をつぶっていました。するとその時彼の耳には、殆声とはいえない位、かすかな声が伝わって来ました。
 「心配をおしでない。私たちはどうなっても、お前さえ仕合せになれるのなら、それより結構なことはないのだからね。大王が何と仰っても、言いたくないことは黙って御出で」
  それは確に懐しい、母親の声に違いありません。杜子春は思わず、眼をあきました。そうして馬の一匹が、力なく地上に倒れたまま、悲しそうに彼の顔へ、じっと眼をやっているのを見ました。母親はこんな苦しみの中にも、息子の心を思いやって、鬼どもの鞭に打たれたことを、怨む気色さえも見せないのです。大金持になれば御世辞を言い、貧乏人になれば口も利かない世間の人たちに比べると、何という有難い志でしょう。何という健気な決心でしょう。杜子春は老人の戒めも忘れて、転ぶようにその側へ走りよると、両手に半死の馬の頸を抱いて、はらはらと涙を落しながら、「お母さん」と一声を叫びました。…………

     六

  その声に気がついて見ると、杜子春はやはり夕日を浴びて、洛陽の西の門の下に、ぼんやり佇んでいるのでした。霞んだ空、白い三日月、絶え間ない人や車の波、――すべてがまだ峨眉山へ、行かない前と同じことです。
 「どうだな。おれの弟子になったところが、とても仙人にはなれはすまい」
  片目眇の老人は微笑を含みながら言いました。
 「なれません。なれませんが、しかし私はなれなかったことも、反って嬉しい気がするのです」
  杜子春はまだ眼に涙を浮べたまま、思わず老人の手を握りました。
 「いくら仙人になれたところが、私はあの地獄の森羅殿の前に、鞭を受けている父母を見ては、黙っている訳には行きません」
 「もしお前が黙っていたら――」と鉄冠子は急に厳な顔になって、じっと杜子春を見つめました。
 「もしお前が黙っていたら、おれは即座にお前の命を絶ってしまおうと思っていたのだ。――お前はもう仙人になりたいという望も持っていまい。大金持になることは、元より愛想がつきた筈だ。ではお前はこれから後、何になったら好いと思うな」
 「何になっても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです」
  杜子春の声には今までにない晴れ晴れした調子が罩っていました。
 「その言葉を忘れるなよ。ではおれは今日限り、二度とお前には遇わないから」
  鉄冠子はこう言う内に、もう歩き出していましたが、急に又足を止めて、杜子春の方を振り返ると、
 「おお、幸、今思い出したが、おれは泰山の南の麓に一軒の家を持っている。その家を畑ごとお前にやるから、早速行って住まうが好い。今頃は丁度家のまわりに、桃の花が一面に咲いているだろう」と、さも愉快そうにつけ加えました。


 
(第1学年主任:江見)


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