2019年1月1日からマラケシュ条約が国内で効力を発する ☆ マラケシュ条約とは  マラケシュ条約とは、「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者」が、発行された著作物を利用する機会を促進するため、2013年6月28日にモロッコのマラケシュで採択された著作権に関する条約です。  日本は、ジュネーブに本部がある世界知的所有権機関(WIPO)で、2018年10月1日に同条約への加入書を提出しました。既にオーストラリア、ブラジル、カナダをはじめ欧州連合などが批准しており、日本は71番目となりました。  今年の1月1日から国内で効力が生じています。 ☆ 条約の主な内容  対象となる著作物は、書籍、雑誌などのテキスト形式のものやオーディオブックなどの音声形式も含み、出版されているか、その他のメディアで公に提供されている著作物であるかは問いません。  DAISY図書、点字本、大活字本、およびその他のアクセシブルなフォーマットの複製は、障害のない人と同様に、無理なく著作物へアクセスできる実現可能なフォーマットや方法での提供を許可しています。  それらの提供を受ける受益者は、印刷物をうまく読むことができないすべての障害(視覚障害者、ディスレクシアなど読むことに障害がある者、身体障害により本を持ったり、ページをめくったり、目の焦点を合わせることができない者を含む)という定義になっています。  その上で、締約国が受益者のために著作権(複製権、譲渡権、利用可能化権)の権利制限規定を設けること、受益者が利用しやすい形式の複製物の輸出入が円滑に行われるよう制度を整備することを規定しています。  締約国では、国内法令における権利制限または例外規定が著作物をアクセシブルなフォーマットにするために必要な変更が許可され、著作者の許可なしに複製が可能となります。  これらの複製物の国境を越えた交換に関わるのが「公認機関」である。締約国の公認機関が別の国の締約国にアクセシブルな複製物を提供する場合、直接、受益者に提供する場合と対象国の公認機関を通して提供の場合とがあります。  なお、著作権者の利益を守るため、公認機関は、複製物について、受益者のみが活用できることを確認し、不正流通を阻止し、取り扱いに注意しなければならないとしています。 ☆ 日本では何が変わるか  2019年1月1日以降、視覚障害者等へのサービスに関して、新たに改善される点は次の3つとなります。  1点目は、視覚障害者は既に、2010年から国内著作権法第37条で、出版社や著作者の許可なしに著作物をアクセシブルな形式にすることが許されていましたが、法第37条第3項の受益者に、肢体不自由者等の、身体障害等により読字に支障のある者が加わりました。  ただ、2010年2月18日に策定された「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」において、すでにこれらの者が含まれており、実際にもこれらの者にサービスを提供する基盤は整っていることから、現状とはほぼ変わりません。  * アクセシブル形式の著作物とは、DAISY図書、点字本、大活字本、およびその他のアクセシブルなフォーマットを意味しています。  2点目は、法第37条第3項を適用できる行為に、公立図書館などが視覚障害者等の求めに応じてDAISYデータ等の音声データを電子メールで送信することが加わりました。  3点目は、一定の条件を具備したボランティアグループ等が、文化庁長官の指定なしに拡大図書やDAISYデータ等を作成して視覚障害者等に提供することが可能となりました。  ただし、当該視覚著作物について、当該方式による公衆への提供又は提示が行われている場合は、この限りではありません。 ☆ おわりに  日本では、2010年から国内著作権法第37条で、出版社や著作者の許可なしに著作物をアクセシブルな形式にすることができていたため、条約に対する関心が低いかもしれません。  しかし、英語でのアクセシブルな資料を読みたい大学生や研究者にとってはメリットが大きいと思います。  また、英語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、ロシア語、中国語といった同じ言語を共有する国や地域間において、アクセシブルな図書を共有できることは効率的であると伴に、コストの面から、アクセシブルな図書など存在しない開発途上国にとって、教育や読書の機会を飛躍的に向上させることにつながると思われます。